猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「――と言う経緯(いきさつ)です。笑っちゃいますよね。結婚を意識していたのは私だけだったんですから……」

ハハハ、と私は苦笑いを浮かべた。

でも、あの時はフラれた事が悲しくて腹も立ったけど、そのお陰で三毛さんに出会えたからもしかしたら元カレには感謝しなければならないのかもしれない。

「……その男性は、見る目がなかったんです」

「え?」

私の話を終始無言で聞いていた三毛さんがボソッと呟いた。

「その人は、大バカ者です。実森さんはとても素敵な女性なのに。いつも笑顔で、心優しくて。それが分からない男なんて、こっちが願い下げですよ!」

椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった三毛さんが、語気を荒げて私の代わりに怒り始めた。普段感情を表に余り出さない三毛さんを見て、私は驚いて固まる。

そんな私を見て、三毛さんがあわあわして頭を下げた。

「あ…驚かせてすみません。でも、腹が立って……。結子さんを忘れなくていいって言われた時、僕は本当に救われたんです。新しい一歩を踏み出す勇気を、あの時実森さんに貰ったんです。そんな優しくて素敵な人がそばに居ながら他の人に目移りするなんて、どう言う神経しているんだ、と思っちゃって……」

「三毛さん……」

三毛さんの言葉が、じぃん……と胸に広がる。そんな風に言われるなんて、思ってもみなかった。

私の話を聞いて笑う様な人じゃないとは分かっていたけど、本当の事を話すのは勇気が入った。なんて哀れな女なんだ、って思われたらどうしようってずっと怖かったから。

「ありがとうございます。そんな風に言って頂けるなんて思っていませんでした。すごく嬉しいです。私もあの時の三毛さんの笑顔とミルクティーに、本当に救われました」

私は嬉しくて、ちょっと涙ぐんだ。

あの時の温かさは一生忘れないと思う。冷え切った心と体に本当に染み渡ったんだ。

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