猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「……え?」

三毛さんの視線を辿って見ると、結子さんの写真が飾られた写真立てが落っこちて、ガラスが粉々に砕け散っていた。

「なん、で……?」

落ちる様な所に置いておいたのだろうか?

いや、そんな危ない所に三毛さんが置いておく訳がない。

じゃあ、なんで?

壊れた写真立てを無言でジッと見つめる三毛さん。

「三毛さん……」

「……実森さんすみません。今日は帰っていただけますか」

そう言った三毛さんの声は、とても冷たい。

「え、でも……」

「すみません」

壊れた写真立てを見るばかりで、こっちを向いてもくれない。

「……分かりました。失礼します」

私は自分の荷物をロッカーから取り出し、お辞儀だけをして足早にお店を出た。

パタン……と、後ろ手にドアを閉める。

「ニャーン」

声のした方を見ると、少し雨に濡れたアールが足にすり寄って来た。

「アール……」

こんな雨が降っている中、ずっと外に居たんだろうか?

ハンカチを取り出し、アールに付いた水滴を拭いてやる。良かった。そんなに濡れてはいないみたい。

「どこに行っていたの?風邪引くよ」

「ニャーン」

目を細めて、手にスリスリと頬を寄せる。

「ふふっ……どういたしまして。ホラ、三毛さんの所へ行きな」

頭を撫でてやると、最近作られたキャットドアからお店の中へ入って行った。

私はそれを見届けて、タッ――と走り出す。

雨に濡れるのも構わず、何も考えずにただただ走った。

「……はぁ……はぁ……」

milk teaが見えなくなる位の所で足を止め、息を整える。

別に意識して立ち止まった訳じゃないけど、この場所は初めて三毛さんと出会った場所。さっきの土砂降り程雨は降っていないものの、まだ嫌な感じに濡れるくらいには降っていた。

フラッシュバックの様に、三毛さんとの出会いが私の頭を駆け巡る。

視界が歪む。

「うっ……うわぁぁぁぁぁんっ!」

我慢出来なくて、私は声を上げて泣いた。

幸い人通りがなかったけど、今の私には人がいたっていなくたってどうでも良かった。

とにかく、声を出して泣きたかった。

「うぅっ……ひぃぃぃっく……」

グッと唇を噛み締める。

さっき三毛さんと唇を重ねた時はあんなに熱かったのに、今噛み締めた唇は冷えきっていた。

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