猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
私は、ひえ~!と顔が赤くなり、咄嗟(とっさ)に「すみません!」と謝った。

「あ、あの、アレは私も予想外の事でして、不測の事態と言いますか何と言いますか……」

慌て過ぎてしどろもどろになっていると、結子さんがクスっと笑い、

「謝らなくて良いのよ。むしろ、こっちが謝らなければならないの」

となぜか結子さんが頭を下げて来たので私は何がなんだか分からなくなった。

(あの、どう言う……)

「ホラあの時、写真立てが落っこちて割れちゃったじゃない?」

(は、はい)

そんな事はあり得ない、と思いつつ、私も三毛さん(特に三毛さん)もあれは結子さんが怒って倒したんじゃ?と少し疑っていたけど……。

結子さんの話は違った。

「あれね、割ったのはアールなのよ」

(……へ?アール?)

急にアールの名前が出て来て私は首を捻《ひね》った。

「そうなの。良いところなんだから邪魔しないの!って言ったんだけど、写真立てのガラスがどうも気になるみたいでジャレて倒してしまったのよ。だから止めなさいって言ったのに、当の本人は驚いて逃げちゃうし」

ふぅ……と頬に手を当て、結子さんはやれやれとため息を吐《つ》いた。

(そう、だったんですか)

なるほど。写真立てが倒れたのは、アールが弄っていたせいだったのか。

確かに、あのキラキラが気になるのかたまにアールが写真立てを弄って三毛さんに怒られている所を目撃した事がある。

(あの、じゃあ……怒ってたんじゃないんですか……?)

「怒る?どうして?」

私の質問に、今度は結子さんが首を捻った。

(その……三毛さんと私が……その……)

モジモジしていると、

「ああ、キスしてた事?」

と、顔色も変えずにサラッと口にする。

(!?……あ、まあ……そう、なんですけど……)

「構わないわよ!むしろ、どんどんしちゃって」

(へぇっ!?)

余りに開けっ広げな態度に、変な声が出てしまった。
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