猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「あの人には幸せになって貰いたいの。本当はわたしが幸せにしてあげたかったけど、もうそれは出来ないから……」

さわさわと足元を(くすぐ)る花に答える様に、しゃがんでその花達を(つつ)いている結子さんの横顔は、少し前の三毛さんと同じ様に淋しそうだった。

「空からあの人を見ていてずっと願ってた。いつか、傷付いた伸ちゃんの心を救ってくれる人が現れます様に……って。あの人、わたしが死んじゃってからどんどん心を閉ざして行っちゃって、見ていてとても辛かったわ。でも、絶対に伸ちゃんを救ってくれる人が現れるって信じて見守って来た」

そう言って結子さんがスッと立ち上がり、私の方を向いて微笑んだ。

「そうしたら実森さんが現れた。実森さんと接してる内にちょっとずつ元気になって笑顔を取り戻して行く伸ちゃんを見て、『ああ、もう大丈夫だな。この子なら伸ちゃんを幸せにしてくれる』って思ったの」

ゆっくりと、結子さんが私の側に寄る。ふわっと温かい感触が手に伝わり、結子さんが私の手を握っているんだと分かる。

「だから、伸ちゃんの事これからもよろしくね。ちょっとヘタレな所もあるけど見捨てないであげてね?」

(結子さん……)

結子さんの言葉を聞いて私は力強く頷き、その手を握り返した。

(はい!任せて下さいっ!)

「ふふ、良い返事。頼んだわよ。……ああ、それと」

(はい?)

「さっき、伸ちゃんが生田さんとキスをしたって思ってるかもしれないけど、アレ、未遂よ」

(えっ?……そう、なんですか?)

「ええ。ギリギリであの人が避けたの、わたしちゃんと見てたもの。だから、怒らないであげてね?)

(分かりました)

私は、結子さんが言うなら間違いないのだろう、と頷いた。
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