猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
「……さん……実森さん……」

「ん……」

私はゆっくりと目を開ける。

「実森さんっ!」

何度か瞬きをして声のする方に視線だけを動かす。

「……三毛さん……」

「良かった……!」

そう言った三毛さんの目は薄っすら赤くなっている。やっぱり泣いていたんだろうか?

「ここは……?」

ぼーっとする視界で天井を見ると、自分の家でも楓の家でもなかった。

「ここは僕の自宅です。実森さん、倒れたんです。覚えてませんか?」

「え……」

倒れた?

ボーっとする頭で記憶を辿ってみる。

……ああ、そうだった。

追いかけて来た三毛さんと言い争いになって、暴れて意識を失ったんだった。

「思い出しましたか?」

「はい……」

段々冴えて来た頭と目で、三毛さんの顔に焦点を合わせる。

あれ?なんか、口の端が赤黒くなってる?頬も若干腫れている様な……。

「三毛さん……怪我したんですか……?」

もしかして、私が手を振り回して抵抗したから私の手が当たってしまったんだろうか?

手を伸ばし、そっと三毛さんの頬に触れる。

「つっ!」

三毛さんの顔が苦痛に歪んだ。

「あ、ごめんなさい……」

引っ込めようとした手をそのままギュッと掴まれた。

「良いんです。これは、優柔不断だった僕への罰なんです」

「え……」

どう言う意味だろう。

「あ、それと、楓さんから伝言で『心臓が止まるかと思った。回復したらお仕置き!』だそうです」

「楓が……?」

なぜ急に楓の名前が出て来たんだろう?

(あ……)

そう言えば、意識が遠くなる寸前、楓の姿が見えた気がした。

それでちょっと安心して気が遠くなったんだっけ。

(楓……腫れている、三毛さんの頬……)

何度か頭の中で唱え、私はハッとした。

「もしかしてその傷……」

「……はい」

三毛さんが困った様に笑った。

サァァッ――と、私の顔から血の気が引く。

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