猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~
どうやら三毛さんの頬の腫れは私の手が当たったのではなく、楓の鉄拳だったみたいだ。

まさか、本当に殴るなんて。

「す、すみませんっ!……あ……」

勢いよく起き上がったら、フラッ……と目が回りベッドへ倒れる。

「ああっ!無理しないで!」

「でも……」

「良いんです。楓さんは、僕に渇を入れてくれたんです。『実森を泣かせるヤツは、誰であっても許さない。幸せに出来ないんであれば、実森は渡さない』そう言って……」

「楓が……」

楓の優しさが、ジーンと胸に染み渡る。

でも、マジで殴るか……楓さん。

「……実森さん」

「はい?」

「すみませんでした」

いきなり三毛さんが私に向かって頭を下げた。

「……え?」

「昨夜は軽率でした。ちゃんと気持ちも伝えずにあんな……でも、誰でも良かったなんて思ってません。本当です。実森さんだからキスもしたし、本当はそれ以上だって……でも……」

三毛さんが、グッと唇を噛み締める。

「写真立てが落ちた時、結子さんに責められている様に思えて……」

そう言って項垂《うなだ》れる三毛さんを見て、やっぱり思っていた通りだと思った。

三毛さんは私にキスをした事が、結子さんに対する裏切り行為だと自分を責めている。私もちょっとそう思ったけど、私は結子さんに事の真相を聞いているから違う事を知っている。

それをちゃんと説明してあげないと、と思った。

「……三毛さん。あの時写真立てを落としたのアールなんです」

「……え?」

私の言葉を聞いて、顔を上げた三毛さんがキョトンとした。

「結子さんが言ってました。アールに止めなさいって言ったけど、写真立てのガラスにジャレて落としたって。だから、怒ってなんかないよ。って」

「……え?結子さんが……え……?」

私の話を聞いて、三毛さんは訳が分からない、とオロオロしている。そして私のおでこに手を当て、顔をしかめた。

「……熱はあるけど正常です」

そう私が言うと、「あ、すみません」と言って手を離した。

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