貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
こそこそせずにもどってみれば、意外と平気なものだった。
もちろん、大柄なフェルナンを盾に使うようなことはしていない。多少、他人の目が気になったけれど、それよりもこうして無事にもどれた今、目指すはスイーツだ。
(チョコは外せないわ。あと、フルーツも)

実際のところ、〝多少〟どころではないほど注目を浴びているというのに、食べることに浮かれたジェシカは一切気付いていない。その様子がおかしくて、またもや笑いをこらえているフェルナンにも。

「あれって、フェルナン騎士団長様よね?」
「隣の方は誰かしら?」
「待って。ロジアン夫人までいらっしゃるわ」

周りでささやかれる声にも、全く気が付いていないジェシカ。もはやスイーツ一直線だ。

「さあ、どれをいただこうかしら?」

ロジアン夫人まで目を輝かせだすのを見て、フェルナンは苦笑した。

「笑ってる場合じゃありませんわよ、団長さん。ほら、ジェシカさんにとって差し上げて」
「ええ、もちろん」
「私、自分でできますわ」

まるでオリヴァーがしてくるように子ども扱いしないで欲しいわと、若干むくれたジェシカに、フェルナンはわざとらしい真面目な顔を向ける。

「私に任せて」

〝あなたに皿を持たせたら、少しどころではなくなってしまう〟と、フェルナンはあの山のように盛られた皿を思い出して、思わず笑い出しそうになるのをこらえた。

「同志……そうね。あなたは同志だもの。信頼できるわ。あっ、そのチョコレートと、横のチョコケーキは絶対よ」

次々に指示を出しそうなジェシカに、ロジアンが笑う。そして、彼女も負けじと五個ほどのスイーツを皿にとってみせた。

「ジェシカさん。スイーツは逃げないわ。どうせなら、ゆっくり食べましょうよ」
「いいえ。逃げることもあるんですよ!!」
「ぶほっ、こほん」

今度こそ耐えられなかったのか、フェルナンが明らかに吹き出していた。が、すかさず横を向いて咳でごまかした。

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