貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「ぶほっ」

再び吹き出したフェルナンを、オリヴァーがちらりと見れば、彼は気まずそうに視線をそらした。
オリヴァーは悟った。フェルナンは前回の姉のやらかしを知っているのだと。

「オリヴァーさん。もう少しだけ、付き合っていただけないかしら? 私達、まだここへ来たばかりなのよ」

さすがにオリヴァーも、目上のロジアンにこう言われてしまえば拒否することはできない。

「そうですか。そういうことでしたら……姉さん、いいですよ」

弟の許可が出た途端に瞳を輝かせたジェシカは、素早くチョコレートを口に入れて、満面の笑みを浮かべた。
(なんて素晴らしいのでしょう)
齢18にして、チョコレート初体験を迎えたジェシカ。

思い起こしてみれば、数カ月前のあの夜会では、初めて目の前にしたチョコレートケーキに魅せられて、その見た目をじっくりと堪能することができた。
(さあ、初・体・験。食べるわよ!!)
踏み込もうとしたその時、料理が乗ったテーブルが無惨に倒されてしまったのだ。

そしてチョコレートへの執念よりも、たくさんの料理がだめになってしまったことのショックの方が上回って、できるだけ救わなきゃ(料理を)と必死になった。あれだけ感動したはずのチョコレートケーキの存在は、頭からすっかり抜け落ちていた。

それを思い出した頃には、父に引きずられるようにして会場を出なくてはならない状況で、泣く泣く諦めた経緯がある。

それをどれほど後悔したことか!!
最初に食べておけばよかったと、何度思ったことか!!

(目の前のチョコレートに触れるすらできないなんて、どんな拷問よ。家に帰れば、こんな豪華なものは食べられないんだから)
今夜こそ思う存分食べるのだからと、一つ目の衝撃を堪能した。

「すごく美味しいです!! 私、こんなに美味しいものは初めて食べました」

オリヴァーが険しい顔で見てくるけれど、大丈夫。気にしない。だって、私にはロジアン夫人という味方と、フェルナン騎士団長という同志が付いているのだからと、ジェシカは警戒心を緩めた。さすがにこの状況で、再び氷の魔王は降臨しないだろう。

「ほら、オリヴァーも食べてみて」

そして、調子に乗った。

「僕はいいですから。甘いものは苦手なので」

(一丁前に格好つけちゃって)
小さい頃は甘いもの大好きで、甘えるオリヴァー可愛さに、自分の分もあげてたぐらいなのに。
未成年のくせにすっかり大人ぶった弟の姿も、見ようによっては可愛いものだけど。

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