貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「ロジアン公爵夫人といえば、王家とも深いかかわりのある方で、社交界で影響力のある方なんですよ。今はもう降りられていますが、一時は王族のマナー指導をしていらした方ですよ」

ジェシカののんびりした様子に、半ば吐き捨てるように説明したオリヴァーだったが、それでもジェシカには強く響かなかった。

「へえ。マナーの指導なんて、なんだか厳しそうね。あっでも、昨夜のロジアン様は本当に気さくな様子で、一緒にチョコレートを……」
「姉さんに手助けされた手前、ロジアン夫人はあなたに合わせてくださったんでしょうが!!」

もう限界とばかりに、オリヴァーの声が一段と大きくなった。

「オリヴァー。落ち着いて」

姉には言われたくないと思わず歯を食いしばるも、自分がなぜイラ立っているのか、ジェシカにはピンときていないことは見え見えで、イラ立ちは募るばかり。
〝この人はこういう人だった〟そう頭ではわかっている。だがしかし、これからさらに社交界に出てつながりを広げて、少しでも良い結婚相手を見つけなければならないのにという焦りは募るばかり。

本来なら、ジェシカ自身が焦るところのはず。そんなことはオリヴァーもわかっているが、なんせ自分のこととなると無頓着なジェシカだ。周りが騒いで追い立てなければ、一生話が進まないだろう。いや、絶対に進まないと断言できる。

「それで、居合わせたフェルナン殿とも?」
「ええ、お父様。団長さんには以前も助けていただきましたので、二度目ですわね」
「ああ、そうだったね。前回、あの方にはずいぶんお世話になったね」
「団長さんとは、同志なんですよ」

ふふふと笑うジェシカに、オリヴァーの何かが切れそうになった。
こめかみをぴくぴくとひくつかせ、口元をわなわなと震わせるオリヴァーに、ジェシカは全く気付かない。

「同志、ですか……」

地を這うような長男の声に、さすがにマーカスもピクリと肩を揺らした。どうやら息子は限界に達したらしいと気付き、若干青ざめる。
が、ジェシカは気が付かない。いや、気付いていても、〝あらあら〟と思うぐらいだ。
彼女の中でオリヴァーは、やっぱり可愛い弟なのだから。

「ええ、そうよ。オリヴァー、顔がひどいわ」

(誰のせいだ、誰の)
という弟の心の叫び声は、父にしか伝わっていないだろう。
ただひたすら、父は穏やかな表情の下でジェシカに対し〝無自覚に煽るのはやめようか〟と訴えていた。が、それも伝わるはずがないこともわかっている。
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