貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「そう。団長さんは同志なの!」

どや顔でさらっと言い切った。
マーカスは、オリヴァーから確かに何かがプチっと切れる音を聞いた。

普段は一体誰に似たのかというほどクールで賢いオリヴァーだったが、姉とのやりとりでは案外安々とその仮面が外れてしまう。それを彼の若さや幼さのせいだけにするのは、いささか不憫というもの。まさしくトリガーはジェシカで、彼女は無自覚にそうさせるだけの言動をしている。

ジェシカはしっかり者の姉と思いきや、ちゃっかり者でのんびり、おっとりした面もあると、オリヴァーは知っている。人の命、人の幸せがかかっていれば、自分の持ちうる限りの全てを投げ出して手を差し伸べる優しさも、幾度となく見てきた。時にはその姿に、歯がゆい思いもしてきた。

それなのに……それなのに……当の本人のこの自由さ。
〝夜会で異性と踊ったのよ。すごいでしょう?〟の世界じゃないのだ。そこから、〝ぜひ結婚を〟と望まれなければ、いくらたくさんの人と踊っても、なんの意味もない。

そのために、主要な貴族について事前に覚える必要があった。その勉強にと資料も用意してあげたし、時には勉強に付き合ってもきたにもかかわらず、ロジアン公爵夫人もフェルナン騎士団長のことも知らなかった姉ジェシカ。加えてその二人をお友達に同志だと認識している有様。

一体、この人の頭の中はどうなっているのか。覗いてやりたいと思ったが、その中にスイーツの山でも見つけようものなら、もうやってられないと首を振った。

「戦の鬼と呼ばれて近隣諸国にまで名を知られ、恐れられてきたほどの方を同志だと? 昨夜もご本人の前でそんな恐れ多いことを言ってましたけど、姉さんはどこをどう見て騎士団長と自分を同志だと言うんですか!?」
「ちょっちょっとオリヴァー、落ち着いてよ」

ぜえぜえと肩で息をするオリヴァーをいさめようとするジェシカ。それがますます怒りを煽るというのに、少しも気付かない。

「団長さんとはね、食べ物を無駄にしてはダメ!! という同志なのよ。以前の夜会で、そう意気投合したの」


「ああ、そうですか……」

負けた……いや。無駄な足掻きだったのか……。

戦なんて無縁な昨今。自分と違って学校に行っていないこの姉に、騎士団長のすごさを語ったところで、〝そうなんだ〟の一言で終わらせてしまいそうだと冷静になればわかっていた。
自分はなにを熱くなっていたのか。らしくない。おそらく、騎士団長も姉の呑気な性格に合わせてくれたのだろう。現に昨夜は、姉の言動に何度か笑いを堪えていたぐらいだ。

「父上。フェルナン騎士団長も、おそらく姉さんに合わせてくださったのかと」
「そ、そのようだね」

以前の夜会を思い出したのか、父マーカスもまた、全てを悟ったかのように呟いた。
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