貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
ミッドロージアン姉弟との出会い(フェルナン)
「団長、昨夜の夜会の警備報告です」
長らく平和が続く昨今。騎士団長とは名ばかりで、鍛錬以外の時間はこうして執務室に詰めて、デスクに向かう時間が圧倒的に多くなっている。
平和にこしたことはない。本当の意味での我々の出番など、ない方がよいのだから。
しかし、実に性に合わない。
近年、騎士団の出番と言えば、実に消極的な内容ばかりだ。城で開かれる夜会の警備。要人を招く際の護衛。それらにまつわる計画の立案。盗賊の取り締まり。時には騎士らの士気が下がらぬように武芸大会を開くなど、以前とは比べ物にならないほど平和な活動がほとんどだ。
「ああ、昨夜の……くくく」
思わず漏れた笑いに、報告書を届けに来た部下もつられている。
「なかなか……インパクトの強いご令嬢でしたね」
「そうだな」
夜会の警備はローテーションを組んでいる。たまたま当番だった自分も、昨夜のちょっとしたアクシデントに出くわしていた。
出席者の7割ほどが集まった頃だろうか。もともと、ざわざわしていた中、ほんの一瞬、自分の周りだけその騒音が止んだ。たまたま入口近くに立っていたからこそ、私も気付けたことだ。
そして、それまでとは少し違ったざわめきが広がっていく。何事かと、人々の向ける視線をたどれば、薄い紫色のドレスに身を包んだご令嬢が、父親と思われる男と共に入場してきたところだった。
「ジェシカ・ミッドロージアンじゃないか?」
自分の近くにいた一人の令息が呟いた。
「実在したんだな」
「噂以上じゃないか!!」
そんな幾分おかしなささやき声に、何のことかと考え、思い至った。
―――姿を見せない美しい令嬢―――
確か、そんなふうに若手の騎士たちがよく騒いでいたものだ。男所帯の騎士団の中では、しばしば女性のことが話題に上る。決して外では漏らせないような話まで。まあ、これもガス抜きかと、団の中でなら多少のやりとりを許していたが、〝ジェシカ・ミッドロージアン〟の名は、頻繁に聞こえていた。
金色の豊かな髪を緩く優しい雰囲気に編み上げた彼女は、きれいな緑の瞳をキラキラと輝かせていた。
なるほど、噂に違わぬ美しい女性だ。出席者が騒ぐのも無理はない。
すぐさま誰が最初に彼女を誘うか、静かな牽制のし合いがはじまった。
何か起こらなければよいがと、全体に目を配りつつ、なんとなくその行方を追っていた。
父親と踊ったジェシカは、早々にホールの中央からはけていった。
噂では病弱だとか耳にしていたが……加えて、人目を惹くあの容姿。一人にして大丈夫なものだろうか? と、少々気がかりだった。が、彼女の父親はそのまま知り合いと話し込んでしまい、そのそばを離れていた。
ジェシカが向かったのは、どうやら料理の並べられている窓際のようだ。彼女が動けば、男ばかりの小集団がぞろぞろとついていく。彼女自身は気が付いていないようだったが、第三者から見ればその様子は明らかだった。
近くの騎士達に気を付けておくようにと、視線で指示を出した。まあ、城で開かれる夜会だ。変なことをするやつはいないと思うが、念のため自分も気にかけていた。
長らく平和が続く昨今。騎士団長とは名ばかりで、鍛錬以外の時間はこうして執務室に詰めて、デスクに向かう時間が圧倒的に多くなっている。
平和にこしたことはない。本当の意味での我々の出番など、ない方がよいのだから。
しかし、実に性に合わない。
近年、騎士団の出番と言えば、実に消極的な内容ばかりだ。城で開かれる夜会の警備。要人を招く際の護衛。それらにまつわる計画の立案。盗賊の取り締まり。時には騎士らの士気が下がらぬように武芸大会を開くなど、以前とは比べ物にならないほど平和な活動がほとんどだ。
「ああ、昨夜の……くくく」
思わず漏れた笑いに、報告書を届けに来た部下もつられている。
「なかなか……インパクトの強いご令嬢でしたね」
「そうだな」
夜会の警備はローテーションを組んでいる。たまたま当番だった自分も、昨夜のちょっとしたアクシデントに出くわしていた。
出席者の7割ほどが集まった頃だろうか。もともと、ざわざわしていた中、ほんの一瞬、自分の周りだけその騒音が止んだ。たまたま入口近くに立っていたからこそ、私も気付けたことだ。
そして、それまでとは少し違ったざわめきが広がっていく。何事かと、人々の向ける視線をたどれば、薄い紫色のドレスに身を包んだご令嬢が、父親と思われる男と共に入場してきたところだった。
「ジェシカ・ミッドロージアンじゃないか?」
自分の近くにいた一人の令息が呟いた。
「実在したんだな」
「噂以上じゃないか!!」
そんな幾分おかしなささやき声に、何のことかと考え、思い至った。
―――姿を見せない美しい令嬢―――
確か、そんなふうに若手の騎士たちがよく騒いでいたものだ。男所帯の騎士団の中では、しばしば女性のことが話題に上る。決して外では漏らせないような話まで。まあ、これもガス抜きかと、団の中でなら多少のやりとりを許していたが、〝ジェシカ・ミッドロージアン〟の名は、頻繁に聞こえていた。
金色の豊かな髪を緩く優しい雰囲気に編み上げた彼女は、きれいな緑の瞳をキラキラと輝かせていた。
なるほど、噂に違わぬ美しい女性だ。出席者が騒ぐのも無理はない。
すぐさま誰が最初に彼女を誘うか、静かな牽制のし合いがはじまった。
何か起こらなければよいがと、全体に目を配りつつ、なんとなくその行方を追っていた。
父親と踊ったジェシカは、早々にホールの中央からはけていった。
噂では病弱だとか耳にしていたが……加えて、人目を惹くあの容姿。一人にして大丈夫なものだろうか? と、少々気がかりだった。が、彼女の父親はそのまま知り合いと話し込んでしまい、そのそばを離れていた。
ジェシカが向かったのは、どうやら料理の並べられている窓際のようだ。彼女が動けば、男ばかりの小集団がぞろぞろとついていく。彼女自身は気が付いていないようだったが、第三者から見ればその様子は明らかだった。
近くの騎士達に気を付けておくようにと、視線で指示を出した。まあ、城で開かれる夜会だ。変なことをするやつはいないと思うが、念のため自分も気にかけていた。