貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「さあさあ。間に騎士様に入ってもらって……ああ、サリー。膝の上はダメよ。それではお菓子をあげられないわ。ダニーもよ」

めったに接することのない〝外の人〟に、子ども達はここぞとばかりにかかわろうとする。膝に座るなんて可愛いもので、中には肩によじ登ろうとする子もいた。
それを注意すると、騎士の方から止められてしまう。彼らはこういうかかわりに慣れているのか、くっついてきた子をひょいっと抱きかかえてストン隣に座らせた。不思議なもので、そうされた子ども達は再びよじ登ろうとはしない。ちゃんとその場に座って待てるのだ。

「今日のおやつは、ジェシカお姉さんが作ってきてくれたクッキーと……」
「やったぁ!! お姉ちゃんのクッキー大好き!!」

子ども達の反応に、にっこりほほ笑むジェシカ。作ってきた甲斐があるというものだ。

「それからパウンドケーキと、横のリンゴジャムは孤児院特製のものよ」

もう待ちきれないと言った様子の子ども達に苦笑して、挨拶の号令をかける。その頃には、ジェシカも子らの間にまざっていた。

「ジェシカお姉ちゃん、クッキー美味しい!!」
「そう? よかった」

隣に座ったエミリーが、口の中をクッキーでいっぱいにしながら必死に話しかけてくる。本当ならばマナー面で注意するところかもしれないけれど、それよりもその様子を可愛く感じたジェシカは、咎めることなくハンカチでエミリーの口元を拭ってやった。

「ほおう。このクッキーはジェシカ嬢のお手製か」

どことなく聞き覚えのある低い声に、自分の左の少し離れた方へ視線を向けた。そこには大柄な騎士がどっかりと座り、ジェシカの持参したクッキーをしげしげと見つめていた。

「そうだよ!! ジェシカお姉ちゃんは、いろんなお菓子を作ってくれるの」
「クッキー以外も作ってくれるよ」
「こういうケーキも作ってくれたことがあるし、ブドウのジャムをくれたこともあるよ」

「それはすごいな」

そのやりとりを見つめながら、声の主に気が付いたジェシカは満面の笑みを浮かべた。

「団長さんね!!」
「いかにも」

ちょっと厳つい雰囲気のフェルナンが、にやりと笑った。

「お姉ちゃん、この騎士様を知ってるの?」

不思議そうに尋ねるエミリーに、ジェシカは得意げに言う。

「ええ、そうよ。フェルナン騎士団長様は、私の同志なんですから」
「同志?」

〝ぶほっ〟と吹き出すフェルナンと、首をひねる子ども達。他の騎士達がその様子を驚いた顔で見ていた。

「そう、同志よ。私も団長さんも、食べ物は大事にするべき!! って思う同志よ」

さすがにこらえきれなかったのか、フェルナンが本格的に笑い出した。それを気にも留めず、胸を張って答えるジェシカ。

「じゃあ、私もだ!!」
「僕も!!」

途端に近くにいた子ども達が騒ぎ出し、さすがにいきすぎかとジェシカがいさめた。
でもこの〝同志騒動〟のおかげで、子ども達にとって騎士は憧れるだけでなく、親しみも抱いたようだ。厳ついフェルナンに対して恐れることもなく話しかける子ども達を、ジェシカは満足そうに見つめた。
< 40 / 95 >

この作品をシェア

pagetop