貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
夜会は親しい友人たちと共に
今日も今日とて、ジェシカは夜会に参加することになっていた。付き添いは父マーカス。弟のオリヴァーは学校の関係でどうしても都合がつかず、その代打に父が……
いや、代打がオリヴァーであって、父が付き添うのは当然だ。
「いいですか、父上。姉さんから目を離さないでくださいよ」
「わかっているよ」
「ダンスを申し込んでくる相手も、ちゃんと見極めてください」
「わかっているよ」
父に対するにはいささか厳しく、ともすると失礼になりかねない物言いのオリヴァーだったが、マーカスとて、彼が自分のことを見下しているわけでないことぐらいちゃんと理解している。そして、一見冷淡そうに見えるこの長男が、実はジェシカに負けないぐらい家族思いなことも。
〝ちゃんと見極めてください〟などとわざわざ言ったものの、オリヴァーは父の人を見る目を信頼している。人の良すぎる父だが、これまで一度も騙されるようなことがなかったのは、まさしく彼に人を見る目があったからだ。しかしそれは、マーカスが意識して相手を選別しているわけではない。無自覚の内に付き合う相手と避けるべき相手を認識し、無意識のうちに避けるべき相手から遠ざかっているのだ。
それに対して、ジェシカもまた父とは違った能力のようなものがある。人を見極めるマーカスに対し、ジェシカは誰の懐にもひょいっと飛び込めてしまい、そこそこ気に入られるなんてことは往々にしてあることだ。まさしく、フェルナン騎士団長とロジアン夫人がそれだ。
そう捉えているオリヴァーは、だからこそ姉が飛び込むべき相手をきちんと見極めて欲しいと思っていた。
「それに、ちゃんと踊ったら、常識の範囲内で食事をさせてあげてもいいんだったよね?」
「ええ、そうです」
会話だけを聞いていたらどちらが親なのかと思ってしまうやりとりだけれども、ミッドロージアン家ではいつものことだ。
「ただし、姉さんにとっての常識はいささか他とずれがちなので、そこも父上が目を配ってくださいね」
「ああ、わかっているよ」
言うべきことは言った。それでも、心配は完全にはぬぐい切れない。
オリヴァーは、なにも姉に意地悪をする気持ちなどみじんもない。本当は自由でいて欲しいと思ってしまう自分もいる。けれど、姉の将来を考えたら、それでいいわけがない。
頭をかすめるのは、先日姉が言った言葉。
―――残念だろうとなんだろうと、これが私なの―――
姉の本心が、まっすぐに刺さってきた。いろいろと制限してしまうことを、申し訳ないとも思った。だから、以前のように姉から完全に自由を奪うようなことはやめたのだ。
※ ※ ※
「ジェシカお姉さま、ネックレスはこっちがいいわ」
「髪はサイドをたらしたらどう?」
おしゃれに目覚めた双子の妹のエイミーとフローラは、今夜こそ準備を手伝わせて欲しいと名乗り出てきた。いつもなら、自分と侍女のカーラでやってしまうところだけれど、可愛い妹達が手伝いたいというのなら拒みはしない。
「まあ、二人ともセンスがいいのね。カーラ、ドレスの色と合いそうね」
「ええ、ええ、そうですね。お二人のおかげで、ジェシカお嬢様がますます美しくなりますわね」
カーラにも認められれば双子達は大喜びするだろうと、ジェシカはわざわざ聞いていた。
カーラの方もジェシカのその意図を理解しており、求められた通りどころかプラスαの答えを返す。
「「本当!?」」
思った通り、エイミーもフローラも嬉しそうな顔をした。
もちろん、二人の提案をそのまま受け入れないこともある。さりげなくさらに合うように変える。けれど、そんなものは二人に見えなければいいのだ。双子達ががおしゃれを楽しんで、数年後に自分達も夜会に参加することを楽しみに思ってくれたら、姉として嬉しい限りだ。
いや、代打がオリヴァーであって、父が付き添うのは当然だ。
「いいですか、父上。姉さんから目を離さないでくださいよ」
「わかっているよ」
「ダンスを申し込んでくる相手も、ちゃんと見極めてください」
「わかっているよ」
父に対するにはいささか厳しく、ともすると失礼になりかねない物言いのオリヴァーだったが、マーカスとて、彼が自分のことを見下しているわけでないことぐらいちゃんと理解している。そして、一見冷淡そうに見えるこの長男が、実はジェシカに負けないぐらい家族思いなことも。
〝ちゃんと見極めてください〟などとわざわざ言ったものの、オリヴァーは父の人を見る目を信頼している。人の良すぎる父だが、これまで一度も騙されるようなことがなかったのは、まさしく彼に人を見る目があったからだ。しかしそれは、マーカスが意識して相手を選別しているわけではない。無自覚の内に付き合う相手と避けるべき相手を認識し、無意識のうちに避けるべき相手から遠ざかっているのだ。
それに対して、ジェシカもまた父とは違った能力のようなものがある。人を見極めるマーカスに対し、ジェシカは誰の懐にもひょいっと飛び込めてしまい、そこそこ気に入られるなんてことは往々にしてあることだ。まさしく、フェルナン騎士団長とロジアン夫人がそれだ。
そう捉えているオリヴァーは、だからこそ姉が飛び込むべき相手をきちんと見極めて欲しいと思っていた。
「それに、ちゃんと踊ったら、常識の範囲内で食事をさせてあげてもいいんだったよね?」
「ええ、そうです」
会話だけを聞いていたらどちらが親なのかと思ってしまうやりとりだけれども、ミッドロージアン家ではいつものことだ。
「ただし、姉さんにとっての常識はいささか他とずれがちなので、そこも父上が目を配ってくださいね」
「ああ、わかっているよ」
言うべきことは言った。それでも、心配は完全にはぬぐい切れない。
オリヴァーは、なにも姉に意地悪をする気持ちなどみじんもない。本当は自由でいて欲しいと思ってしまう自分もいる。けれど、姉の将来を考えたら、それでいいわけがない。
頭をかすめるのは、先日姉が言った言葉。
―――残念だろうとなんだろうと、これが私なの―――
姉の本心が、まっすぐに刺さってきた。いろいろと制限してしまうことを、申し訳ないとも思った。だから、以前のように姉から完全に自由を奪うようなことはやめたのだ。
※ ※ ※
「ジェシカお姉さま、ネックレスはこっちがいいわ」
「髪はサイドをたらしたらどう?」
おしゃれに目覚めた双子の妹のエイミーとフローラは、今夜こそ準備を手伝わせて欲しいと名乗り出てきた。いつもなら、自分と侍女のカーラでやってしまうところだけれど、可愛い妹達が手伝いたいというのなら拒みはしない。
「まあ、二人ともセンスがいいのね。カーラ、ドレスの色と合いそうね」
「ええ、ええ、そうですね。お二人のおかげで、ジェシカお嬢様がますます美しくなりますわね」
カーラにも認められれば双子達は大喜びするだろうと、ジェシカはわざわざ聞いていた。
カーラの方もジェシカのその意図を理解しており、求められた通りどころかプラスαの答えを返す。
「「本当!?」」
思った通り、エイミーもフローラも嬉しそうな顔をした。
もちろん、二人の提案をそのまま受け入れないこともある。さりげなくさらに合うように変える。けれど、そんなものは二人に見えなければいいのだ。双子達ががおしゃれを楽しんで、数年後に自分達も夜会に参加することを楽しみに思ってくれたら、姉として嬉しい限りだ。