貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
皿に山盛りだった料理のほとんどが、赤い苺に吸い込まれていった頃、ジェシカの一番近くにいた男が、さらに一歩彼女に近付いた。
周りが慌てて牽制しようとするも少し遅く、近付いた男がジェシカに声をかける。

「失礼。はじめまして。私、バース侯爵が嫡男、エイベルと申します。お名前を伺っても?」

それまで皿の上の料理に釘付けだったジェシカの瞳が、ちらりとエイベルに向けられる。正面から見るその美少女ぶりに、エイベルの喉がゴクリと鳴った。
彼の耳元に赤みが差しているのは、気のせいだろうか?
初めてジェシカの視線を独占できたことに、はっきり言ってエイベルは今にも舞い上がらんばかりの気持ちだった。

「あら、はじめまして。ジェシカ・ミッドロージアンと申します」

〝知っていましたとも。ええ、もちろんですとも〟と、心の内で思った男は、エイベルだけではない。姿を見せない令嬢、ジェシカ・ミッドロージアンの名前を知らない結婚適齢期の貴族男性は、王都にそうそういないのだから。

「この後、私とおどっ……」

最後まで言わせてもらえはしなかった。
そんな哀れな男エイベルの様子に気付いていないジェシカは、名乗ったのだからおしまいと言わんがばかりに、皿の上の最後の一品を食べ終わり、再び料理を取りに向かっていた。

「ジェ、ジェシカ嬢!! この後私と踊っていただけませんか?」

それでも気を取り直して、すぐさまジェシカの横に立ったエイベルを、ジェシカはちらりと見た。が、すぐに料理に向き直る。

「ぜひ、お願いします」

さらに食い下がるエイベルに、〝食事の後でしたら〟と返したジェシカ。
エイベルは思う。彼女の意識は、ほぼ料理に向いている。けれど、確かに彼女はOKしてくれた。

「約束ですよ」

あまりの嬉しさに天を仰ぐエイベル。その様子をジェシカは気にすることもなく、再びもくもくと皿に山を築いていく。


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