貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
ジェシカがフェルナンの差し出した手に自分の手を添えると、二人はそのままマーカスからも見える場所に立ち止まってかまえた。もちろん、フェルナンの配慮からこの場を選んでいる。これまで見て来た夜会での様子から、父親が見守れる場所がよいだろうと。

「ふふふ。フェルナン様と踊れるなんて、思ってなかったです」
「そうか。私は次にジェシカと夜会で会ったら、誘おうと思っていたが」
「まあ」

二人してにこやかに踊る姿は、周りの注目を一手に集めていた。
一体どういう関係なのかと、聞きたいけれど聞けないもどかしさ。そうやきもきする集団と少し離れたところで、父マーカスは友人二人に迫られていた。

「マーカス。ジェシカちゃんと騎士団長って、一体どういう関係なんだ?」

挨拶もないまま切り出すのは、親しい間柄であることの証拠。質問にも遠慮がない。

「あの戦の鬼と、ジェシカちゃんって……」
「あ、ああ。正直、私も驚いているんだが……娘曰く、団長殿とはお友達なのだそうだ」
「はあ? お友達だと」
「なんでそんなことに!?」

この友人二人にも年頃の息子がいる。マーカスとは長い付き合いで、お互いのことをよくわかっているし、娘のジェシカはとにかく美しい。ジェシカが社交界デビューしたこのタイミングに、ぜひうちの嫁にと申し出ようと目論んでいたところだった。それが、タッチの差で他の男にジェシカを連れ去られてしまったのだ。しかも、かなりの大物に。

「なんで、なんだろうなあ。以前、息子と出席した夜会で親しくなったようなんだが……」
「なんだ、煮え切らない」
「私にも、よくわからないんだよ。娘から団長殿と知り合いになったとは聞いていたが、まさかここまで親しくなっていたとは」

チラリと娘たちの様子を確認しながら、友人の問いに返すマーカス。なんとも曖昧な答えに、二人は焦れに焦れていた。

「はあ……まさか、このまま婚約とかないよな?」
「こ、婚約……」

友人二人に交互に追及され、何とも居心地の悪い思いをしているマーカスは、もはや何が何だかわからなくなっていた。

「婚約だと!?」
「嘘だろ。本当にか!?」

ひそかに耳を澄ませていた近くの面々も、一様に驚愕した。


「いやいやいや。あのフェルナン騎士団長だぞ」
「あっ、ああ、そうだね。いや、よくしてもらってるだけだよ」

〝たぶん〟という言葉は内心で呟いた。
本当かよと疑わしげに見てくる友人の視線を交わし、マーカスは生き生きと踊るジェシカを見つめた。
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