貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
フェルナンのたくらみ
「団長。ちょっと、あの噂はどういうことですか?」
「あの、とは?」
まあ、大体の内容はわかっているが、ここはとぼけておくとするか。
「らしくない。はぐらかさないでくださいよ! わかっているんでしょうに」
この男は、本当にうるさい。どこぞのご令嬢のようだな。
「わからないな。なんのことだ?」
一ミリの動揺も見せずすました顔で応じれば、目の前の部下は焦れて一層ヒートアップしていく。
「ですから、ジェシカ・ミッドロージアン嬢とのことですって」
だろうな。昨夜開かれたロジアン夫人の夜会には、騎士団の者やその知人も幾人か招かれていたはずだ。知っていたとしてもおかしくはない。
が、今目の前にいる部下は平民上がりの騎士だ。実力主義のここでその出自をとやかく言うつもりは一切ないが、間違いなくこの男は昨夜の会に招待されていない。一夜のうちに、出席者以外にもジェシカと私のことが広まっているとは若干驚いた。女性並みに噂好きな奴らだな。
「ジェシカがどうかしたのか?」
「ジェ、ジェシカ……」
ああ、そうか。つい名前で呼んでしまったが、かなりの衝撃を与えたようだ。部下は口をポカンと開けたまま固まってしまった。これでは敵意のある相手にすぐにやられてしまう。
思わず手にしていたペンで部下の脇腹をつついてやると、〝おぅふ〟と文字にするには苦労しそうななんとも情けない声を出して、身をよじらせた。
「だ、団長!? あなた、こんなことをする人でしたっけ!?」
慌てて身を正しながら、困惑するように問いかけてきた。
飴と鞭を使い分け、どちらかというと鞭の割合が多く、まじめな場では若手がビビリあがるほどだと言われる私のこと。このようないたずらめいたやりとりを、部下や仲間を相手にしたことなど、もちろんない。
「あまりにも無防備だったからな。隙が多すぎると忠告したまでだ」
「す、隙って……この場に敵はいません!!」
当たり前だ。ここは私の執務室で、いるのは自分と目の前の部下だけ。敵になるとしたら、互いだけだ。つまり、攻撃したことに間違いはない。
まあ、こんなくだらないことを考えてしまったのはジェシカの影響だろう。彼女のいたずらめいた表情が脳裏に浮かんだ。
「そ、それより、なんでジェ、ジェシカだなんて呼び方を……」
お前が呼ぶなと、思わず言いそうになったのをぐっとこらえた。さて、なんと答えたものか……。
「彼女とは、縁があってな」
「え、縁って。それほど面識のないご令嬢と、どうしたらお近づきになれると言うんですか!」
噂好きの男だ。ここでのやりとりは、部屋を出た次の瞬間には団の大多数が知るところになるのだろうな。
「それをお前に言う必要があるか?」
「な、ないです」
少しすごんでみせれば、途端にすくみ上がる。まあ、いたぶるのはこれぐらいにしておいてやるか。
「親しくしているよ、彼女とは。夜会でダンスを二曲続けて踊るぐらいには」
意味深に告げれば、男の顔が恐怖から驚愕へと変わっていく。
同じ相手と二曲続けて踊るのは、一般的に婚約者の特権だ。ジェシカは気付いていないようだったが。
「あの、とは?」
まあ、大体の内容はわかっているが、ここはとぼけておくとするか。
「らしくない。はぐらかさないでくださいよ! わかっているんでしょうに」
この男は、本当にうるさい。どこぞのご令嬢のようだな。
「わからないな。なんのことだ?」
一ミリの動揺も見せずすました顔で応じれば、目の前の部下は焦れて一層ヒートアップしていく。
「ですから、ジェシカ・ミッドロージアン嬢とのことですって」
だろうな。昨夜開かれたロジアン夫人の夜会には、騎士団の者やその知人も幾人か招かれていたはずだ。知っていたとしてもおかしくはない。
が、今目の前にいる部下は平民上がりの騎士だ。実力主義のここでその出自をとやかく言うつもりは一切ないが、間違いなくこの男は昨夜の会に招待されていない。一夜のうちに、出席者以外にもジェシカと私のことが広まっているとは若干驚いた。女性並みに噂好きな奴らだな。
「ジェシカがどうかしたのか?」
「ジェ、ジェシカ……」
ああ、そうか。つい名前で呼んでしまったが、かなりの衝撃を与えたようだ。部下は口をポカンと開けたまま固まってしまった。これでは敵意のある相手にすぐにやられてしまう。
思わず手にしていたペンで部下の脇腹をつついてやると、〝おぅふ〟と文字にするには苦労しそうななんとも情けない声を出して、身をよじらせた。
「だ、団長!? あなた、こんなことをする人でしたっけ!?」
慌てて身を正しながら、困惑するように問いかけてきた。
飴と鞭を使い分け、どちらかというと鞭の割合が多く、まじめな場では若手がビビリあがるほどだと言われる私のこと。このようないたずらめいたやりとりを、部下や仲間を相手にしたことなど、もちろんない。
「あまりにも無防備だったからな。隙が多すぎると忠告したまでだ」
「す、隙って……この場に敵はいません!!」
当たり前だ。ここは私の執務室で、いるのは自分と目の前の部下だけ。敵になるとしたら、互いだけだ。つまり、攻撃したことに間違いはない。
まあ、こんなくだらないことを考えてしまったのはジェシカの影響だろう。彼女のいたずらめいた表情が脳裏に浮かんだ。
「そ、それより、なんでジェ、ジェシカだなんて呼び方を……」
お前が呼ぶなと、思わず言いそうになったのをぐっとこらえた。さて、なんと答えたものか……。
「彼女とは、縁があってな」
「え、縁って。それほど面識のないご令嬢と、どうしたらお近づきになれると言うんですか!」
噂好きの男だ。ここでのやりとりは、部屋を出た次の瞬間には団の大多数が知るところになるのだろうな。
「それをお前に言う必要があるか?」
「な、ないです」
少しすごんでみせれば、途端にすくみ上がる。まあ、いたぶるのはこれぐらいにしておいてやるか。
「親しくしているよ、彼女とは。夜会でダンスを二曲続けて踊るぐらいには」
意味深に告げれば、男の顔が恐怖から驚愕へと変わっていく。
同じ相手と二曲続けて踊るのは、一般的に婚約者の特権だ。ジェシカは気付いていないようだったが。