貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
デートの誘いとは
「うひょっ!?」
執事のウォルターが、屋敷に届いた手紙を改めながら妙な声を上げている場に遭遇してしまったら、声をかけないわけにはいかない。
「どうした、ウォルター」
「だ、だだ、旦那様」
うん、ちょっと落ち着こうか。今は借金はしていないから取り立てではないはずと、マーカスがウォルターを諫めた。
それにしても、ウォルターを追い詰めるとは一体どんな知らせが来たというのか。
「何かあったか?」
「こ、ここ、これを、ご、ご覧ください」
「なんだ?」
手渡された白い封筒のあて名は、長女のジェシカになっている。もしかして婚約の申し込み第一号だろうかと、期待なのか不快なのか、父親としてなんとも言い難い気持ちで封筒を裏返した。そして、ピキリと固まった。
「フェルナン、タウンゼンド、閣下……」
なんということだ。
マーカスは、二日前の夜会で彼が娘と二曲続けて踊っていた姿を思い出していた。フェルナンとジェシカがここのところ親しくしていたのは、本人やオリヴァーの話から認識していた。
社交の場に放り出すには、なにかと危なっかしいジェシカのこと。フェルナンは、ジェシカにとって初めての夜会のあの現場に居合わせたこともあって、大人として騎士団長として、娘を気にかけてくれているのだと思っていた。
しかし、ロジアン夫人の夜会での彼を見て、自分の認識と実情にはズレがあると思い始めていたところだ。
あれほど立派な方が、なぜジェシカを?
その理由がわからなかった。どちらかと言えば、娘は恥ずかしい面ばかり晒していたと思う。食い意地の張ったところに木登りをしたところ、おまけに男児用のズボンを履いて……ダメだ。自分の娘ながら、異性としての良さが見つけられない。
もちろん、家族としては良いところばかりの自慢の娘なのだが。それに、妻に似た見目の良さも理解しているし、それに群がる男達が出るだろうとも予想していた。
それがまさか、騎士団長まで……。
いやいやいや。あれほどの功績を上げながら、決しておごることなく、自分にも部下にも常に厳しく律していると聞く彼が、不埒な理由で近付いたとは思えない。
友人らによると、フェルナンはその功績から伯爵位与えられており、女性たちの間では婿候補としてかなり人気があるのだという。つまり、彼は今よりどりみどりなのだ。
それにもかかわらず、女性に関するうわさは一切聞かない。そんな彼が、私の自慢の娘とはいえ、令嬢らしくないジェシカにわかりやすく周りを牽制するような執着を見せた。これは一体……。
考えれば考えるほど、わからなくなるばかりだ。
「だ、だだ、旦那様」
おやおや、まだ落ち着いていなかったのか。
ウォルターが、もう一通の手紙を差し出してくる。こちらは自分宛のようで、差出人には同じくフェルナン・タウンゼンドとある。
ふむ。これは執務室で落ち着いて開封するべきだろう。
ウォルターにお茶を頼み、そのまま部屋にもどることにした。
そして今、机の上に並べた二通を眺めている。娘宛てのものは、ここで勝手に開封すべきではない。ジェシカのことだ。勝手に開けたとしても、少しも気にしないだろう。それに、当主として開ける権利もある。が、自分がされて不快に感じることはしたくない。
「よし、こっちは開けるか」
妙な緊張感に包まれて、思わずかしこまってしまう。破いてしまわないように、慎重にナイフを入れて取り出した紙には、厳つい彼からは想像のできない、几帳面な文字が並んでいた。
「オリヴァーにもよろしく、か……」
執事のウォルターが、屋敷に届いた手紙を改めながら妙な声を上げている場に遭遇してしまったら、声をかけないわけにはいかない。
「どうした、ウォルター」
「だ、だだ、旦那様」
うん、ちょっと落ち着こうか。今は借金はしていないから取り立てではないはずと、マーカスがウォルターを諫めた。
それにしても、ウォルターを追い詰めるとは一体どんな知らせが来たというのか。
「何かあったか?」
「こ、ここ、これを、ご、ご覧ください」
「なんだ?」
手渡された白い封筒のあて名は、長女のジェシカになっている。もしかして婚約の申し込み第一号だろうかと、期待なのか不快なのか、父親としてなんとも言い難い気持ちで封筒を裏返した。そして、ピキリと固まった。
「フェルナン、タウンゼンド、閣下……」
なんということだ。
マーカスは、二日前の夜会で彼が娘と二曲続けて踊っていた姿を思い出していた。フェルナンとジェシカがここのところ親しくしていたのは、本人やオリヴァーの話から認識していた。
社交の場に放り出すには、なにかと危なっかしいジェシカのこと。フェルナンは、ジェシカにとって初めての夜会のあの現場に居合わせたこともあって、大人として騎士団長として、娘を気にかけてくれているのだと思っていた。
しかし、ロジアン夫人の夜会での彼を見て、自分の認識と実情にはズレがあると思い始めていたところだ。
あれほど立派な方が、なぜジェシカを?
その理由がわからなかった。どちらかと言えば、娘は恥ずかしい面ばかり晒していたと思う。食い意地の張ったところに木登りをしたところ、おまけに男児用のズボンを履いて……ダメだ。自分の娘ながら、異性としての良さが見つけられない。
もちろん、家族としては良いところばかりの自慢の娘なのだが。それに、妻に似た見目の良さも理解しているし、それに群がる男達が出るだろうとも予想していた。
それがまさか、騎士団長まで……。
いやいやいや。あれほどの功績を上げながら、決しておごることなく、自分にも部下にも常に厳しく律していると聞く彼が、不埒な理由で近付いたとは思えない。
友人らによると、フェルナンはその功績から伯爵位与えられており、女性たちの間では婿候補としてかなり人気があるのだという。つまり、彼は今よりどりみどりなのだ。
それにもかかわらず、女性に関するうわさは一切聞かない。そんな彼が、私の自慢の娘とはいえ、令嬢らしくないジェシカにわかりやすく周りを牽制するような執着を見せた。これは一体……。
考えれば考えるほど、わからなくなるばかりだ。
「だ、だだ、旦那様」
おやおや、まだ落ち着いていなかったのか。
ウォルターが、もう一通の手紙を差し出してくる。こちらは自分宛のようで、差出人には同じくフェルナン・タウンゼンドとある。
ふむ。これは執務室で落ち着いて開封するべきだろう。
ウォルターにお茶を頼み、そのまま部屋にもどることにした。
そして今、机の上に並べた二通を眺めている。娘宛てのものは、ここで勝手に開封すべきではない。ジェシカのことだ。勝手に開けたとしても、少しも気にしないだろう。それに、当主として開ける権利もある。が、自分がされて不快に感じることはしたくない。
「よし、こっちは開けるか」
妙な緊張感に包まれて、思わずかしこまってしまう。破いてしまわないように、慎重にナイフを入れて取り出した紙には、厳つい彼からは想像のできない、几帳面な文字が並んでいた。
「オリヴァーにもよろしく、か……」