貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「ジェシカ、今日はどうだった?」

夕方それほど遅くない時間に、フェルナンはジェシカを自宅に送り届けた。しきりに上がっていくように勧めるマーカスに、フェルナンは〝近いうちにきちんとした形で伺わせてください。今日は彼女も疲れているでしょうから、早めに休ませてあげてください〟と、すぐに帰ってしまった。
満足そうなフェルナンに対して、ジェシカはというと、どことなくふわふわとしているようだとマーカスはいぶかしんでいた。

「た、楽しかったわよ」

娘は確かに楽しんできたようだけれども、どこか落ち着がない。
紳士であると有名なフェルナンのこと。まだ婚約すら結んでいないジェシカに、まさか手を出すようなことはしていないと思うが……。
しかし、目の前の娘の様子はやはりなんとなくおかしい。

「魚を釣ったの。たくさん釣れたし、その場で調理もしてもらったわ」
「そうか」

(うん。それは予定通りのことだ)
自然の中ですごすことが好きなジェシカなら嬉々として釣っていただろうと、マーカスはその姿を想像した。

「サンドウィッチも、言っていた通りハムがすごく美味しくて」

おそらく味を思い出しているのだろう。謎のふわふわ感だけでなくてうっとりとした顔になったジェシカに、マーカスは恐る恐る質問をする。

「その後は、どうすごしたのかい?」

なんだか聞くのが怖くなるが、父親として聞かないわけにはいかない。

「その後……」

わずかに思案したジェシカは、そわそわし出した。

「な、なにか、あったのかい?」

娘が答えるまでの沈黙に、マーカスもわそわとしていた。

「フェルナン様って、大きいのね」

(な、なにがあったんだ……)
フェルナンがずいぶん大柄なことは、もとよりわかっている。それをわざわざ言葉にした娘の真意が読めず、マーカスは顔をひきつらせた。

「それに……フェルナン様は温かいわ」

(何が!?)
温かいと言えば、手をつないだということだろうか?
うん。それぐらいならもちろん、許容範囲だ。

「優しくしてくださいました」

(だから、何をだ!?)
もちろん、二人が訪れたのは公共の場だ。手をつなぐぐらいはともかく、それ以上変な……不埒なふれあいはしていないはずだとわかっている。いや、願っている。
けれど、この意味深な言い回しはなんなのだ。

これが母親だったら、もっとうまく聞き出せていただろう。しかし、異性の自分ではなかなか聞き出せそうにもない。まして、オリヴァーに任せられるはずもない。

「そ、そうか。なにか……へ、変なことはなかったかい?」

自分で言っておきながら実にあいまいな言い回しだと、マーカスは焦れ、内心うなだれてもいた。

「変なこと、ですか? うーん……特にはなかったと思いますけど」
「そ、そうか」

結局、マーカスには詳細を聞き出すことができなかった。
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