貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
その後、二人は花を見て回った。もちろん、手をつないで。しかも指を絡めるような大人のつなぎ方だ。
到着した頃は全く気にしていなかった。というより、ジェシカは手をつながれていることに気が付いてもいなかったぐらいだ。それが意識し出すとなんだか恥ずかしくて仕方がなくい。
ジェシカは大好きな花を見つつも、ついちらちらとつながれた手とフェルナンの顔を見てしまっていた。

「ジェシカ、座ろうか」

途中に置かれていたベンチに座った。もちろん、二人の間に隙間はない。
その近すぎる距離に、ジェシカの胸は高鳴るばかり。
(どうしちゃったのかしら? 今日のフェルナン様は、なんだかいつもと違うわ)
やたら近いうえに自然に触れてくるし、自分に向けられる笑みはこれまで以上に優しくて、発せられる声音はハチミツのように甘い。
(な、なんだか、恥ずかしいわ)

「ジェシカの好きな花はなに?」

などと、とりとめもない会話が繰り広げられる中、座っているというのにつながれた手が解かれる気配はない。自分から放すのはなんとなくはばかられる。それに、こうしていることは気恥ずかしいけれど、嫌だとは思わない。

そんなジェシカの心情を察したフェルナンは、つないだ手にもう片方の手も添えて、ジェシカの小さな手を包み込んでしまった。

「フェ、フェルナン様……」

添えられた手に視線を向けると、〝嫌か〟と聞かれてしまう。
もちろん、嫌じゃない。
けれど……

「な、なんだか、恥ずかしいわ」
「どうして?」
「どうしてって」

(なんだか、今日のフェルナン様は意地悪だわ。答えられるわけないのに)

そうこうしているうちに、フェルナンはつないだ手を目の高さほどに掲げた。そして、ジェシカに流し目を送りながら、その手の甲にそっと口付けを落とした。

(な、なな、なに!? なにが起こっているの)
狼狽えるジェシカに、フェルナンがくすりと笑った。
(わ、私、からかわれているのかしら?)

「ジェシカと過ごしていると、時が経つのがあっという間だ」
「え?」

ふわりとほほ笑むフェルナンに、思わず目を見開いた。
彼のブラウンの瞳は、愛しくて仕方がないと自分に語っているのがわかってしまった。それは、父や弟妹達が向けてくるそれとは少し違う。
そんな目で見つめられたら、温かい気持ちが広がると同時にドキドキしてくる。

「ジェシカといると、ホッとするんだ」

大人なフェルナンからそんなふうに言われたことに、ジェシカは嬉しさを感じた。

「わ、私も、今日はすごく楽しい。そ、それに、フェルナン様といるとドキドキするけれど、すごく安心もするわ」

本心だとはいえ、思わずそう言ってしまったことが気恥ずかしくて俯いた。
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