貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
男所帯の一致団結
ここに、一人の男がいた。
大柄で愛想はなく、めったに笑みを見せないことで有名な厳つい男……のはずが、今日はやたら機嫌がいいらしい。長い付き合いになる部下達はすぐにわかった。

いつも口元が固く結ばれているこの男。その口元は、今朝も確かに結ばれている。一見してなんら普段と変わりがないのだが、よく見ればわずかに……ほんのわずかに口角が上がっているとわかる。

普段から理不尽なことを言わない上司だけれど、甘いこともめったに言わないこの男、フェルナン・タウンゼンド騎士団長。その彼が〝差し入れだ〟と、詳しいことは何も告げないまま団員の人数分のスイーツを差し出してきた。その中身は……。

「なんですか、これ?」

こたえなど期待していなかった。
受け取った団員が思わず呟いた疑問に、フェルナンはやや自慢げに言う。

「知らないのか? プリンというのだ。近頃王都で人気らしいぞ」

(知るわけないです! あなたはどこの乙女ですか!!)
と、居合わせた男達は心の中で一斉に突っ込んだ。

「乙女だねぇ」

もとい。一人だけ心の声が漏れていた。
フェルナンに次いで騎士団ナンバーツーの実力の持ち主で、剣を握る以上に得意なことは戦略を立てることという、腹黒カーティスだ。フェルナンとは幼い頃からの付き合いで、その物言いには遠慮がない。

「スイーツとは程遠い存在の団長さんが、なんでこんな朝一番で並んでも買えるかどうかわからないという幻のプリンを、これほど大量に買えたの? 知ってる? どこぞのご令嬢がよこせと店に圧力をかけて脅そうとしても屈しなかった、強者店主の店のプリンだよ?」
「すごいな、情報量」

フェルナンが呆れて言った。

一体、そんな幻のプリンを、この男はどうやって手に入れたのか? そして、カーティスはその情報をどこで仕入れてきたのか?
団員たちは興味津々で事の成り行きを見守った。

「……口利きはできないからな。ここだけの話だぞ。これが最近有名な菓子だということは、ロジアン夫人から聞いた。そして、これを作っている店主を昔ちょっと手助けしたことがあって、今回だけ特別に融通を効かせてくれた。それだけだ」

今回限りだというそのスペシャルな融通を、どうしてこのむさ苦しいばかりの男達に使ったのか……。全員が内心で首を傾げていた。使うべきところは、他にあるのではないのかと。

「女に使いなよ、そのチャンスはさあ」

いや。一人だけストレートに意見していた。もちろん、カーティスだ。

「私の勝手だろ? たまには部下を労っても、罰は当たらん」

どことなく気まずげに、ぶっきらぼうに言い放ったフェルナン。
そこへ、新たに一人団員がやってきた。
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