貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「それで、このプリンなんですね」

テッドの呑気な呟きに、団員達は思う。〝いやいや、ちょっと待て。確かにプリンから話は始まった。けれど、今はそんなことはどうでもいい。それよりも婚約の話だ〟と。
ノー天気なテッドは、仲間によって後方へ追いやられていった。


「なるほど」

〝それだけ? あれだけ団長と親しいのに、それだけなのか?〟と、カーティスが細かいことを突っ込みもせず、たった一言で片づけてしまったことに内心で戸惑う団員達。
そんな彼らを尻目に、カーティスは笑みを絶やさない。

「なんだ、カーティス」

さすがにフェルナンも腹黒なこの男の淡白な反応が気になり、眉間にしわを寄せた。なにかを企んでいるのではないかと。

「よかったねぇ」
「お、おい!!」

反応が薄いとフェルナンが訝しげに様子を伺っている間に、がばりとカーティスに抱きしめられていた。大柄な厳つい男に、細マッチョなイケメン(腹黒)が抱き着くこの光景はさすがにシュールすぎて、屈強な騎士達であっても狼狽えた。

「こ、これ、見ててもいいやつなのか?」
「もしかしてこの二人、過去に関係が……」
「なんだかんだ言って、仲いいもんな」

団員達が薄っすら目元を赤らめて、小声でやりとりし合った。この二人はそういう関係だったのかと。

「おい、カーティス! 暑苦しい」

フェルナンはすかさずカーティスを引きはがそうとするも、共に鍛え合ってきた男相手にそう簡単にはいかない。狼狽えてしまった分、フェルナンの方が不利だ。

「もう、ひどいなあ。僕がどれほど君の婚約を喜んでいるのか、わかってる?」

上目遣い(意図的)に問いかけるカーティスの姿は、周りにいろいろなことを妄想させる。

「あ、ああ。ありがとう」
「言い方が雑すぎだから」

そういってフェルナンを小突くカーティスに、団員らは不本意にもドキドキさせられていた。
なんだろう、このいちゃつきとも言えるやりとりは……。
もちろん、カーティスによる若干真意の伝わりにくいいたずらにすぎないのだが、団員らはほんのわずかに二人の仲を疑ってしまった。


「ということで、いい? 君達」

一通りいちゃつき倒したカーティスは、集まっている団員らをぐるりと指さして熱い視線を送った。さながら、なにか熱狂的な集まりのような様相を呈しいている。カーティスに返す団員達の視線もまた、熱狂的な色が見て取れる。

「今後、団が警備にあたる夜会から、フェルナン団長の当番を外す」
「何を言ってる、カーティス」

驚いて止めようとするフェルナンを、カーティスは遮った。

「当然だろ、フェルナン。君は任務から外すから」

当たり前に言い切ったカーティスに対して、フェルナンは眉間に皺を寄せて真意を問う。

「なぜだ?」
「ジェシカ嬢と参加するために決まってるでしょ」

そうだ、そうだと、全員が興奮状態で前のめりに頷く。
そのあまりにも異様な団結状態に、さすがのフェルナンもわずかに後ずさった。

「お、おう。そうか」

これは受け入れざるを得ないと、気圧されるようにして頷くフェルナン。
しかし、冷静な部分ではまあよいかと判断していた。団員らの好意によってジェシカと過ごす時間が増えるというのなら本望だ。ここは彼らの好意に甘えようと。
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