貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
婚約は最短距離で
騎士団が戦の狼煙を上げ……いや、騎士団長フェルナン・タウンゼンドとその婚約者であるジェシカ・ミッドロージアン嬢を全力で見守ると誓うに至った少し前のこと。そう。ジェシカとフェルナンが逢瀬を重ねていた頃に話はもどる。


「どうしよう。次は何を着ていったらいいの?」

三回目のデートを前に、ジェシカは狼狽えていた。着ていく服はどれがいいのかしら? などという乙女な悩みではなく、着ていく服がないという現実的で切実な悩みだ。しかし、それもその後すぐに解決することになる。

「ジェ、ジェシカ」

例のごとく、〝うひょっ〟と奇妙な声を上げた執事ウォルターから受け取った大きめな箱を開けて、マーカスが腰を抜かしそうになったのは、娘には内緒だ。

「お父様、どうかしました?」
「こ、これを、ジェシカにと……」

大きな箱を前に、訝しげな顔をするジェシカ。

「フェルナン殿からだ」
「え?」

〝フェルナン〟と聞いて一気に体のこわばりが解けたジェシカは、部屋に父を招き入れて箱を開けた。早くも、ジェシカにとってフェルナンという存在は、心を許せるものとなっている。
箱の中には、お出かけ用のドレスと靴が入っていた。

「次のデートで、これを着たジェシカに会えるのを楽しみにしている……だそうだ」

添えられていたカードを読み上げたのはマーカスだ。
中身を再度見て、ものすごく高級ではないものの決して安物ではない代物に、マーカスは先ほどとは違う意味で驚いていた。
この贈り物からは、フェルナンの本気度が伝わってくる。着るものがないとわかっていて贈ったことや、高級過ぎればジェシカは着ないだろうと理解した上でのこのチョイス。極めつけは、むずがゆいこの手紙。ここまでされて拒否することができようか? いや、できるはずがない。

「まあ、素敵!!」

あたたかな淡いオレンジ色のドレスは、ジェシカによく似合う。ここに宝石までは添えられていないあたり、ジェシカを理解した上での思いやりだと、ある意味感心していたマーカス。
が、このドレスを着て出かけたデートから帰宅した娘の首元に、初めて見る豪華なネックレスが居座っていたのには大いに驚かされた。
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