貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
メインである薬師の表彰が終わると、国王夫妻によるファーストダンスが披露された。続いて出席者達も踊り出す。もちろん、ジェシカとフェルナンも。しかもフェルナンが意図的に確保したポジションは、会場のどこにいても目に留まりやすい場所だ。一曲二曲と続けて踊る二人に、周囲の視線は釘付けになっていく。
ジェシカには婚約者であるフェルナンしか見えていないことが、そのうっとりと彼を見つめる表情からわかる。
無意識のうちに二人の仲睦まじげな様子を見せつける姿に、会場の隅で控えていたカーティスは、腹黒らしからぬ本気の笑みを浮かべていた。そして、そろそろ自分もそんな相手を捕まえたいと、親友をうらやましく思った。
「ジェシカ、あと一曲だ」
「でも、三曲連続は……」
「私達は正式な婚約者だ。問題ない」
同じ相手と続けて踊る意味を、先日オリヴァーに教えられていたジェシカは、これまでを振り返って羞恥に悶えていた。知らず知らずのうちに、周りに見せつけていたのかと。しかも、まだ思いを通わせる以前に。
三回続けて踊るのは、婚約者の特権。フェルナンは今宵、この場で二人の婚約を確実に知らしめようと思っていた。
ジェシカにしても、恥じらったのは一瞬のこと。正直フェルナンと踊るのは楽しくて仕方がなく、さほど迷うことなく同意した。
「この曲が終わったら、挨拶に回ろう」
もちろん、ジェシカが他の男と踊る隙を作るようなフェルナンではない。何の疑問も抱かせぬままジェシカを誘導した。
「こ、国王陛下に、ですか……」
フェルナンが真っ先に向かったのが、あまりにも恐れ多いお方だったことに、ジェシカは戸惑っていた。が、そこはジェシカの扱いにすっかり慣れたフェルナンのこと。彼女が尻込みし出す余裕も与えないまま陛下の元に連れ出していた。
「おお、フェルナンか。よく来てくれた。して、そのご令嬢が……?」
「はい。私の婚約者の、ジェシカ・ミッドロージアン嬢です」
「お、お初にお目にかかります。ジェシカ・ミッドロージアンと申します」
やっとの思いでなんとか告げたジェシカを、国王も王妃もあたたかな目で見つめていた。
「面を上げるがよい」
「は、はい」
「フェルナンよ、美しい娘を捕まえたなあ」
国王が発するには、いささか砕けた口調だ。
「ええ。ですが、彼女の良さはその見目の良さだけではありませんよ」
答えるフェルナンも緊張することなく、余裕で返している。そこに、二人がいかに近しい関係であるかを感じたジェシカは、一瞬、そんなすごい方の相手が自分でよいのかと戸惑ってしまった。
「そうか、そうか。ジェシカ嬢、フェルナンのことを頼んだぞ」
「は、はい」
そう返事はしたものの、子どもっぽくて世間知らずな自分は、どちらかというと彼に頼ってばかりだ。なんとなく落ち込みそうになってしまったジェシカだったが、そこはこの煌びやかな空間とフェルナンがそうさせなかった。
フェルナンは自身の知り合いにジェシカを婚約者だと、次々に紹介して回った。それはまるで外堀を埋めるかのように。
騎士団長を務めるフェルナンの知り合いと言えば、それなりの地位にある貴族たちばかりだ。そのだれもが好意的に〝おめでとう〟と返してくれることに、ジェシカの気持ちも徐々に上向いていった。
「フェルナン!」
突然呼び止めてきた男性の声に、フェルナンがわずかに不機嫌さを醸し出した。
「お前は今仕事中だ。私語を慎め」
これで挨拶まわりは終わりかと思われた頃、一人の騎士がフェルナンの前に立ちふさがった。
フェルナンと同年代ぐらいだろうか? と、ジェシカは失礼にならない程度に相手を観察した。
「少しぐらいいいでしょ。特別だよ。と・く・べ・つ」
二人の口調は対照的であるものの、その様子からかなり親しい間柄だと想像できる。
「なにが特別だ。ジェシカ、こいつは私の部下のカーティスだ」
文句を言いながらもどこかあきらめた様子のフェルナンは、少々投げやりにカーティスを紹介した。
「ジェシカちゃん、はじめまして」
いきなり馴れ馴れしくするカーティスに思わず身構えたジェシカだったが、フェルナンの部下とあらばきちんと対応しておかなければと、差し出された手に自身の手を重ねた。と思ったら、その手をフェルナンが勢いよく奪い返していた。
「おぉ怖っ。いいでしょ、親友の婚約者なんだから。盗ったりしないって」
嫉妬心をむき出しにジロリと睨む迫力満点なフェルナンだったが、カーティスには少しも怖くなかったようでお茶らけて返した。
「ジェシカちゃん、こいつのことよろしくね」
「は、はい」
紹介はしたのだからもうよいだろう。フェルナンはジェシカの手を取ると、素早くその場を後にした。
ジェシカには婚約者であるフェルナンしか見えていないことが、そのうっとりと彼を見つめる表情からわかる。
無意識のうちに二人の仲睦まじげな様子を見せつける姿に、会場の隅で控えていたカーティスは、腹黒らしからぬ本気の笑みを浮かべていた。そして、そろそろ自分もそんな相手を捕まえたいと、親友をうらやましく思った。
「ジェシカ、あと一曲だ」
「でも、三曲連続は……」
「私達は正式な婚約者だ。問題ない」
同じ相手と続けて踊る意味を、先日オリヴァーに教えられていたジェシカは、これまでを振り返って羞恥に悶えていた。知らず知らずのうちに、周りに見せつけていたのかと。しかも、まだ思いを通わせる以前に。
三回続けて踊るのは、婚約者の特権。フェルナンは今宵、この場で二人の婚約を確実に知らしめようと思っていた。
ジェシカにしても、恥じらったのは一瞬のこと。正直フェルナンと踊るのは楽しくて仕方がなく、さほど迷うことなく同意した。
「この曲が終わったら、挨拶に回ろう」
もちろん、ジェシカが他の男と踊る隙を作るようなフェルナンではない。何の疑問も抱かせぬままジェシカを誘導した。
「こ、国王陛下に、ですか……」
フェルナンが真っ先に向かったのが、あまりにも恐れ多いお方だったことに、ジェシカは戸惑っていた。が、そこはジェシカの扱いにすっかり慣れたフェルナンのこと。彼女が尻込みし出す余裕も与えないまま陛下の元に連れ出していた。
「おお、フェルナンか。よく来てくれた。して、そのご令嬢が……?」
「はい。私の婚約者の、ジェシカ・ミッドロージアン嬢です」
「お、お初にお目にかかります。ジェシカ・ミッドロージアンと申します」
やっとの思いでなんとか告げたジェシカを、国王も王妃もあたたかな目で見つめていた。
「面を上げるがよい」
「は、はい」
「フェルナンよ、美しい娘を捕まえたなあ」
国王が発するには、いささか砕けた口調だ。
「ええ。ですが、彼女の良さはその見目の良さだけではありませんよ」
答えるフェルナンも緊張することなく、余裕で返している。そこに、二人がいかに近しい関係であるかを感じたジェシカは、一瞬、そんなすごい方の相手が自分でよいのかと戸惑ってしまった。
「そうか、そうか。ジェシカ嬢、フェルナンのことを頼んだぞ」
「は、はい」
そう返事はしたものの、子どもっぽくて世間知らずな自分は、どちらかというと彼に頼ってばかりだ。なんとなく落ち込みそうになってしまったジェシカだったが、そこはこの煌びやかな空間とフェルナンがそうさせなかった。
フェルナンは自身の知り合いにジェシカを婚約者だと、次々に紹介して回った。それはまるで外堀を埋めるかのように。
騎士団長を務めるフェルナンの知り合いと言えば、それなりの地位にある貴族たちばかりだ。そのだれもが好意的に〝おめでとう〟と返してくれることに、ジェシカの気持ちも徐々に上向いていった。
「フェルナン!」
突然呼び止めてきた男性の声に、フェルナンがわずかに不機嫌さを醸し出した。
「お前は今仕事中だ。私語を慎め」
これで挨拶まわりは終わりかと思われた頃、一人の騎士がフェルナンの前に立ちふさがった。
フェルナンと同年代ぐらいだろうか? と、ジェシカは失礼にならない程度に相手を観察した。
「少しぐらいいいでしょ。特別だよ。と・く・べ・つ」
二人の口調は対照的であるものの、その様子からかなり親しい間柄だと想像できる。
「なにが特別だ。ジェシカ、こいつは私の部下のカーティスだ」
文句を言いながらもどこかあきらめた様子のフェルナンは、少々投げやりにカーティスを紹介した。
「ジェシカちゃん、はじめまして」
いきなり馴れ馴れしくするカーティスに思わず身構えたジェシカだったが、フェルナンの部下とあらばきちんと対応しておかなければと、差し出された手に自身の手を重ねた。と思ったら、その手をフェルナンが勢いよく奪い返していた。
「おぉ怖っ。いいでしょ、親友の婚約者なんだから。盗ったりしないって」
嫉妬心をむき出しにジロリと睨む迫力満点なフェルナンだったが、カーティスには少しも怖くなかったようでお茶らけて返した。
「ジェシカちゃん、こいつのことよろしくね」
「は、はい」
紹介はしたのだからもうよいだろう。フェルナンはジェシカの手を取ると、素早くその場を後にした。