貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「あら、フェルナン様。そちらは……?」

食事でもしようかと話していたとき、突然声をかけてきたのは、いくつもの宝石で身を飾ったご婦人だった。その隣には、真っ赤なドレスにこれまた豪華な宝石を身に着けた美しい女性がいる。親子なのだろうとジェシカは察した。娘の年齢は、自分とそう変わらなさそうだ。

どんな知り合いなのかと首を傾げたジェシカを、二人は無遠慮に上から下までジロジロと見てきた。悪意すら感じるその視線に、ジェシカは無意識のうちにフェルナンの腕に添えていた手にぎゅっと力を込めた。それを感じ取ったフェルナンは、あいている方の手でジェシカの手をポンポンと撫でる。
フェルナンのその心遣いに気を取り直したジェシカだったが、二人のその様子を見ていた娘の目が吊り上がっていくことに気付くと、再び身をこわばらせてしまった。

「大丈夫だ」

そっと耳打ちするフェルナンを見上げると、彼は〝任せて〟と言うように頷いた。

「これはこれは、お久しぶりですバーバラ夫人。と、そちらは……」

もちろんフェルナンは娘の名を知っていた。以前、このご婦人に押しつけがましく紹介されたことがあるからだ。
しかし、先ほど彼女がジェシカを睨みつけていた腹いせに知らないふりをしてみせた。母娘はそのことにいら立っていたようだが、フェルナンは気にも留めない。

「以前紹介させていただきましたが、娘のグレイスですわ。それで、そちらの方は?」

再びジェシカに向けられる無遠慮な視線を遮るように、フェルナンはさりげなく体の向きを変えた。
それまで浮かべていた余所行きの笑みはなくなり、彼が不機嫌になっていることをジェシカは感じ取っていた。

「こちらは、私の婚約者のジェシカ・ミッドロージアン嬢です」

〝ジェシカ、名乗るだけでいい。挨拶をしようか〟とこっそり耳打ちされて、〝はじめまして。ジェシカ・ミッドロージアンと申します〟となんとか声を発した。
言い終えるや否や、フェルナンはさっとジェシカの腰を抱き寄せて、自分の陰に隠してしまう。その行動に、母娘の目がますます吊り上がっていく。

「ひどいですわ、フェルナン様。うちのグレイスをと話していたではありませんか」

母親とともにイラ立ちを隠さないグレイスを見て、彼女はフェルナンを好いているのだろうとジェシカは感じていた。けれど、フェルナンが彼女をなんとも思っていないのは明白だ。

「承諾した覚えは一切ありませんよ」

圧をかけるようなフェルナンに一瞬怯んだバーバラは、それでも気を取り直したようで、フェルナンに詰め寄る。
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