貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「うちの娘に何か不満でも?」
「いいえ、そうではありません。私はジェシカに出会って初めて、不満という言葉の意味を知ったのです。もっと会いたい、もっと好きになって欲しい。どれだけ一緒に過ごしても、別れの時間を思うと満足できない。そんなふうに思えた女性はジェシカだけです。ですから、私は彼女を望んだのです。幸い、彼女もまた私を求めてくれましたしね」

盛大な惚気を披露するフェルナンに、さりげなく近くに控えていた騎士が心底驚いた顔をしている。
(この不愛想な団長が、こんな顔をするなんて……)
騎士だけでなく、居合わせた面々も驚きを隠せないでいる中、ジェシカは真っ赤な顔を隠すように俯いていた。

「なっ……」

フェルナンは、言葉をなくすバーバラを満足げに見ていた。
しかし娘のグレイスの方は違ったようで、大人しく引き下がるつもりはなさそうだ。
勝気そうな目元をさらにぐっと吊り上げると、彼女はおもむろに口を開いた。

「フェルナン様。少しぐらい見目が良いからと、惑わされたのですか? 私だって、外見には自信があります。しかも、そちらの方より若くて地位だって上よ。それに、この方って令嬢らしくないって有名ではありませんか。そんな方が騎士団長であるフェルナン様の婚約者だなんて……あなたの恥にしかなりませんわ」

(もっともなことを言われてしまったわ。反論の余地がないほどに)
ジェシカにとってグレイスの言葉はストレートすぎて、落ち込むどころか言われて当然だと思わず納得してしまった。
彼女に何を言われても、自分は落ち込みはしない。フェルナンは、そういうジェシカが好きだといつも言葉で表してくれるからだ。
もちろん、行き過ぎたはしたなさは直さなければならないと自覚している。それでも、自分は自分らしくいてよいのだと、いつもフェルナンが与えてくれる言葉はジェシカの支えとなってきた。

そして今この瞬間も、腰を抱くフェルナンの手は、ジェシカはそのままでいいんだと言い聞かせるようにぐっと力を込めて勇気付けてくれる。
だから、ジェシカは俯かなかった。身分の違いには怯んでも、やっかみに怯む必要はないと。

「グレイス嬢。言葉遣いに気を付けることもできませんか?」
「なっ……」

憧れのフェルナンに鋭い口調で咎められ、勝気そうなグレイスも言葉をなくして表情をひきつらせた。ジェシカが隣を見上げれば、怒りを隠そうともしないフェルナンがいた。

「あなたは、私が外見と年齢だけで伴侶を選ぶとお思いですか? 年齢で言えば、私もずいぶん年増ですが」
「なっ、えっ……」
「外見? 笑わせないでもらいたい。そんなもので一生の伴侶を決めるなど、愚かしい。私は彼女の内面に惹かれたんですよ。人一倍家族思いで、領民思いなところ。いつも自分より他人を優先するところ。そんな心の綺麗な彼女に惹かれたんです。ああ、もちろん外見も好きですよ。彼女の内面を映したかのような、この優し気な外見も」

特大な惚気を投下されて、ジェシカは恥ずかしさに固まってしまった。そんな彼女をフェルナンが優しく見下ろして愛し気に髪をなでる様子は、誰がどう見ても仲睦まじい恋人の姿だ。

フェルナンがジェシカの優しさを盛大に惚気た裏で、グレイスに対してその釣り目気味で勝気そうな顔は、意地の悪い内面の表れだと揶揄したことに気付いた周りはこっそり失笑し、言われた母娘は真っ赤になって恥ずかしさと怒りから体を震わせていた。
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