貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「だって私、王族じゃありませんもの。常に見張られているわけじゃないから、少しぐらいいいでしょ?」
お茶目すぎる。ここでその少女っぽさ全開は反則だ。〝いや、だめでしょ〟とは言えない。あたかも、〝王族じゃなくてよかった〟などとにおわせていることにも突っ込めない。
「グレイスさん。あなたの育った家庭では、あなたがおっしゃったことが当然のことで、常識なんでしょう。けれど、全員が全員同じじゃないのよ。ダンスを通して交流を深める人もいれば、食事を通して交流を深める人もいる。それでいいじゃない」
不思議なことに、ロジアンがそう言うのならそうなのではと周囲に浸透していく。彼女の言葉なら間違いないと、その先入観がそう思わせているのだけれど、もう一度確認しておく。ジェシカは初めて出席した夜会で食べすぎと言われてしまうほど料理を食べていた上に、誰ともまともな交流をしていなかった。が、そんなことはもはや関係ないようだ。
「それよりも、せっかく婚約を発表した二人に対して難癖をつけ、無遠慮な視線を向ける。それでもお祝いを述べるならまだしも、あろうことかお相手の女性を否定し、ねちねちねちねちと嫌味ったらしくぶつける」
そう言うロジアンの口調も実にねちっこいのだが、もちろん誰も指摘できず。
バーバラとグレイス母娘に向けられる周囲の視線は、どんどん厳しいものになっていく。
「それこそ、育った環境のなせる所業、なのかしら?」
思わずくすくすと笑い声が漏れてくる。真っ青になっていたグレイスは、羞恥と怒りから顔を瞬時に真っ赤にさせた。
「非常識ですよ」
しばらく周囲のざわつきに耳をすませていたロジアンは、その瞬間、グレイス母娘をバッサリと切り捨てた。その口調があまりにも鋭くて、辺りは一瞬にして静まり返ってしまう。
今や会場中がその成り行きを見守っている。
ジェシカは、自分が当事者なだけにどうしたものかと悩み、無意識のうちにフェルナンの腕にぎゅっとしがみつくようにしていた。そしてこの緊張感高まる中、フェルナンは一人、しがみついてくる婚約者が可愛すぎて悶絶していた。
「事情があったのならともかく、単なる横恋慕でしかないぐらいで人の幸せを祝えないとは、なんて心の寂しい方なのかしら?」
嫌味だ。とてつもなく嫌味だ。けれどその通りだと、少なくない人達が頷いている。
ジェシカが知らないだけで、この母娘は以前から地位を鼻にかけてそれなりの態度を見せていたのだ。味方となる人はそれほどいない。
「心の貧しい人なのね」
「なっ……」
もうこれ以上辱められるわけにはいかないと、やっと息を吹き返したバーバラは、真っ赤な顔で言った。
「か、帰りましょう、グレイス」
それだけか!? と、ある意味周囲を驚かせる一言だった。どうせ言うのなら、これまでの横暴な振舞のように、少しぐらい言い返してこればいいのにと思ったのは、ロジアン本人だ。
「あっけなかったわね」
そうボソリと呟いたロジアンは、打って変わって上品な笑みを浮かべた。
「せっかくお楽しみのところ、お騒がせして申し訳ありません。ここからは、それぞれ気楽に楽しみましょう」
(ロジアン夫人……強い、強すぎるわ)
ジェシカは一人見当違いな方向に感動していた。
周囲はまだちらちらと気にしつつも、ロジアンにこれ以上不躾な視線を向けるのもはばかれて、散り散りに離れていく。
「さ、ジェシカさん、団長さん」
(出たわ。少女ロジアン様。その話し方が可愛すぎる)
その変わり身の早さに、フェルナンはこっそり苦笑した。
「あちらでお食事でもいただきながら、あなた達の婚約に至るまでのお話を、じっくり聞かせていただこうかしら?」
「っ……」
一瞬詰まったフェルナンは、確信した。このお方は、根掘り葉掘り聞き出すつもりなのだと。ついでに、からかう気もありそうだ。時折、ロジアンに相談をしていたのだから、ある程度は知っているというのに……。
一波乱あったものの、大好きなフェルナンとダンスをして、彼の知り合いにも紹介してもらえた上に食事も満足に食べられたジェシカは、満面の笑みを浮かべていた。その横には、フェルナンが少しの隙間も空けずに控えている。
「ジェシカさん。ああは言ったけれど、あなたがもしマナーを学びたいと思っているのなら、私がいつでも教えて差し上げますわ。うちへ気軽に遊びに来てくれればいいわ」
別れ際に優しく伝えるロジアンに、ジェシカはこの人に出会えたことを感謝していた。
(気軽に? そんな半端な気持ちであの人の元を訪ねたら、間違いなく灰になるわ!!)
と、聞き耳を立てていた一部の王族が思ったとか、思わなかったとか。
けれど、彼らのそんな心の声は杞憂に終わることになる。言葉通り、気軽にロジアンの元を訪れたジェシカに、彼女は懇切丁寧に指導をした。毎回、おいしい紅茶と珍しいスイーツをおともにしながら。
お茶目すぎる。ここでその少女っぽさ全開は反則だ。〝いや、だめでしょ〟とは言えない。あたかも、〝王族じゃなくてよかった〟などとにおわせていることにも突っ込めない。
「グレイスさん。あなたの育った家庭では、あなたがおっしゃったことが当然のことで、常識なんでしょう。けれど、全員が全員同じじゃないのよ。ダンスを通して交流を深める人もいれば、食事を通して交流を深める人もいる。それでいいじゃない」
不思議なことに、ロジアンがそう言うのならそうなのではと周囲に浸透していく。彼女の言葉なら間違いないと、その先入観がそう思わせているのだけれど、もう一度確認しておく。ジェシカは初めて出席した夜会で食べすぎと言われてしまうほど料理を食べていた上に、誰ともまともな交流をしていなかった。が、そんなことはもはや関係ないようだ。
「それよりも、せっかく婚約を発表した二人に対して難癖をつけ、無遠慮な視線を向ける。それでもお祝いを述べるならまだしも、あろうことかお相手の女性を否定し、ねちねちねちねちと嫌味ったらしくぶつける」
そう言うロジアンの口調も実にねちっこいのだが、もちろん誰も指摘できず。
バーバラとグレイス母娘に向けられる周囲の視線は、どんどん厳しいものになっていく。
「それこそ、育った環境のなせる所業、なのかしら?」
思わずくすくすと笑い声が漏れてくる。真っ青になっていたグレイスは、羞恥と怒りから顔を瞬時に真っ赤にさせた。
「非常識ですよ」
しばらく周囲のざわつきに耳をすませていたロジアンは、その瞬間、グレイス母娘をバッサリと切り捨てた。その口調があまりにも鋭くて、辺りは一瞬にして静まり返ってしまう。
今や会場中がその成り行きを見守っている。
ジェシカは、自分が当事者なだけにどうしたものかと悩み、無意識のうちにフェルナンの腕にぎゅっとしがみつくようにしていた。そしてこの緊張感高まる中、フェルナンは一人、しがみついてくる婚約者が可愛すぎて悶絶していた。
「事情があったのならともかく、単なる横恋慕でしかないぐらいで人の幸せを祝えないとは、なんて心の寂しい方なのかしら?」
嫌味だ。とてつもなく嫌味だ。けれどその通りだと、少なくない人達が頷いている。
ジェシカが知らないだけで、この母娘は以前から地位を鼻にかけてそれなりの態度を見せていたのだ。味方となる人はそれほどいない。
「心の貧しい人なのね」
「なっ……」
もうこれ以上辱められるわけにはいかないと、やっと息を吹き返したバーバラは、真っ赤な顔で言った。
「か、帰りましょう、グレイス」
それだけか!? と、ある意味周囲を驚かせる一言だった。どうせ言うのなら、これまでの横暴な振舞のように、少しぐらい言い返してこればいいのにと思ったのは、ロジアン本人だ。
「あっけなかったわね」
そうボソリと呟いたロジアンは、打って変わって上品な笑みを浮かべた。
「せっかくお楽しみのところ、お騒がせして申し訳ありません。ここからは、それぞれ気楽に楽しみましょう」
(ロジアン夫人……強い、強すぎるわ)
ジェシカは一人見当違いな方向に感動していた。
周囲はまだちらちらと気にしつつも、ロジアンにこれ以上不躾な視線を向けるのもはばかれて、散り散りに離れていく。
「さ、ジェシカさん、団長さん」
(出たわ。少女ロジアン様。その話し方が可愛すぎる)
その変わり身の早さに、フェルナンはこっそり苦笑した。
「あちらでお食事でもいただきながら、あなた達の婚約に至るまでのお話を、じっくり聞かせていただこうかしら?」
「っ……」
一瞬詰まったフェルナンは、確信した。このお方は、根掘り葉掘り聞き出すつもりなのだと。ついでに、からかう気もありそうだ。時折、ロジアンに相談をしていたのだから、ある程度は知っているというのに……。
一波乱あったものの、大好きなフェルナンとダンスをして、彼の知り合いにも紹介してもらえた上に食事も満足に食べられたジェシカは、満面の笑みを浮かべていた。その横には、フェルナンが少しの隙間も空けずに控えている。
「ジェシカさん。ああは言ったけれど、あなたがもしマナーを学びたいと思っているのなら、私がいつでも教えて差し上げますわ。うちへ気軽に遊びに来てくれればいいわ」
別れ際に優しく伝えるロジアンに、ジェシカはこの人に出会えたことを感謝していた。
(気軽に? そんな半端な気持ちであの人の元を訪ねたら、間違いなく灰になるわ!!)
と、聞き耳を立てていた一部の王族が思ったとか、思わなかったとか。
けれど、彼らのそんな心の声は杞憂に終わることになる。言葉通り、気軽にロジアンの元を訪れたジェシカに、彼女は懇切丁寧に指導をした。毎回、おいしい紅茶と珍しいスイーツをおともにしながら。