貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
父とオリヴァーが隣り合って座り、机を挟んでフェルナンが座った。
オリヴァーとしては、姉には少し離れたところに座って欲しかったが、そうさせなかったのはフェルナンだった。ジェシカの腰をぐっと引き寄せて、有無を言わさず自分の横に座らせてしまった。
きっとこれから話し合われる内容は、小難しくて自分には想像すらできないものもあるかもしれない。それでも、ここをよくしていきたいという気持ちは誰にも負けない。そのために、チャンスがあれば意見を出したいと、ジェシカは一言も聞き漏らさない意気込みでいた。
「これは僕と父で考えた改革案です」
「なに、これ」
オリヴァーの広げた数枚の用紙を見て思わず呟いたジェシカを、弟はジロリと睨んだ。今はしゃべるなと。
用紙には、文字と図とグラフとなにやら難しいことがびっしりと書かれている。
「ほう。これはすごいな。オリヴァー君、説明をしてくれ」
「はい」
この案は基本的にオリヴァーが考え、ところどころマーカスが手直ししたものだ。
「まず前提ですが、この地は自然が豊かで、農業を中心とした……いえ、農業以外なにもないところです。外からお金を稼いでくることはほぼなく、外から人が訪れてお金を落としていくこともありません」
(どうしよう。まだ冒頭だというのに、私の弟が賢すぎて直視できないわ)
弟はずいぶんと口が達者に育ってしまったが、それでも年相応な一面もある少年だと思っていたジェシカ。けれどこの出だしを聞いただけで、もう立派な次期領主なのだと納得しそうになる。
一見冷淡で興味を示すものもさほどないオリヴァーだったが、自分の想像以上にこの土地のことを考えてくれていたようだ。その事実に気づき、まだ冒頭の何一つ具体的な提案もしていない段階から、ジェシカの瞳は潤み始めていた。
ちらっと視線を上げて姉の様子を見たオリヴァーは、ぎょっとしていた。懸命にも、声を漏らすことはこらえたが。
(なぜだ。まだ話し始めたばかりだというのに、姉さんはどうして涙ぐんでいるんだ? もしかして、口を挟むなときつく言いすぎたのだろうか)
まったくかみ合っていない二人だったが、ジェシカが賢明にも口出ししないでいたため、話は滞りなく進んでいく。
「ここは王都から日帰りで行き来ができ、王都に居を構える人が気軽に訪れるに適した土地です。また、もう一つの特徴として、副業でお針子をしている者が多くいます。ただ、お針子なら王都にも多数いるため、大した稼ぎにはつながりません。つまり技術が生かし切れていないのです」
弟の話に、ジェシカは大きく頷いた。
(そうなのよ。みんな素晴らしい技術を持っているのに、その活躍の場は家族の服のほつれやカーテンの直しなど、生活に密着したものばかりで、収入にはなかなかつながっていないのよ)
かくいうジェシカも裁縫はなかなかの腕前で、刺繍も得意だ。しかし、その技術の使い道は……以下同文。
「そこで、改革の二本柱を考えました」
(すごいわ、オリヴァー。〝二本柱〟だなんて、なんだか本格的な響きだわ)
ジェシカにしても、それなりに賢い。貴族令嬢として、知っておくべきことはほぼ身につけている。ロジアンの指導もあって、最近は身のこなしも令嬢らしく優雅になってきた。
オリヴァーは姉について、自分には劣るもののそれなりに賢い部類だと認識している。
ただ、学校に通ったり同じ立場の人間と意見を交わしたりする経験が皆無なため、どうしても視野が狭くなりがちだ。オリヴァーが普通に使う言葉が物珍しく、不必要に小難しく聞こえてしまうのも仕方がない。
オリヴァーとしては、姉には少し離れたところに座って欲しかったが、そうさせなかったのはフェルナンだった。ジェシカの腰をぐっと引き寄せて、有無を言わさず自分の横に座らせてしまった。
きっとこれから話し合われる内容は、小難しくて自分には想像すらできないものもあるかもしれない。それでも、ここをよくしていきたいという気持ちは誰にも負けない。そのために、チャンスがあれば意見を出したいと、ジェシカは一言も聞き漏らさない意気込みでいた。
「これは僕と父で考えた改革案です」
「なに、これ」
オリヴァーの広げた数枚の用紙を見て思わず呟いたジェシカを、弟はジロリと睨んだ。今はしゃべるなと。
用紙には、文字と図とグラフとなにやら難しいことがびっしりと書かれている。
「ほう。これはすごいな。オリヴァー君、説明をしてくれ」
「はい」
この案は基本的にオリヴァーが考え、ところどころマーカスが手直ししたものだ。
「まず前提ですが、この地は自然が豊かで、農業を中心とした……いえ、農業以外なにもないところです。外からお金を稼いでくることはほぼなく、外から人が訪れてお金を落としていくこともありません」
(どうしよう。まだ冒頭だというのに、私の弟が賢すぎて直視できないわ)
弟はずいぶんと口が達者に育ってしまったが、それでも年相応な一面もある少年だと思っていたジェシカ。けれどこの出だしを聞いただけで、もう立派な次期領主なのだと納得しそうになる。
一見冷淡で興味を示すものもさほどないオリヴァーだったが、自分の想像以上にこの土地のことを考えてくれていたようだ。その事実に気づき、まだ冒頭の何一つ具体的な提案もしていない段階から、ジェシカの瞳は潤み始めていた。
ちらっと視線を上げて姉の様子を見たオリヴァーは、ぎょっとしていた。懸命にも、声を漏らすことはこらえたが。
(なぜだ。まだ話し始めたばかりだというのに、姉さんはどうして涙ぐんでいるんだ? もしかして、口を挟むなときつく言いすぎたのだろうか)
まったくかみ合っていない二人だったが、ジェシカが賢明にも口出ししないでいたため、話は滞りなく進んでいく。
「ここは王都から日帰りで行き来ができ、王都に居を構える人が気軽に訪れるに適した土地です。また、もう一つの特徴として、副業でお針子をしている者が多くいます。ただ、お針子なら王都にも多数いるため、大した稼ぎにはつながりません。つまり技術が生かし切れていないのです」
弟の話に、ジェシカは大きく頷いた。
(そうなのよ。みんな素晴らしい技術を持っているのに、その活躍の場は家族の服のほつれやカーテンの直しなど、生活に密着したものばかりで、収入にはなかなかつながっていないのよ)
かくいうジェシカも裁縫はなかなかの腕前で、刺繍も得意だ。しかし、その技術の使い道は……以下同文。
「そこで、改革の二本柱を考えました」
(すごいわ、オリヴァー。〝二本柱〟だなんて、なんだか本格的な響きだわ)
ジェシカにしても、それなりに賢い。貴族令嬢として、知っておくべきことはほぼ身につけている。ロジアンの指導もあって、最近は身のこなしも令嬢らしく優雅になってきた。
オリヴァーは姉について、自分には劣るもののそれなりに賢い部類だと認識している。
ただ、学校に通ったり同じ立場の人間と意見を交わしたりする経験が皆無なため、どうしても視野が狭くなりがちだ。オリヴァーが普通に使う言葉が物珍しく、不必要に小難しく聞こえてしまうのも仕方がない。