貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「フェルナン様。資金援助ではなく、ミッドロージアン家への貸付という形でお願いします」
「どういうことだ?」
「この改革が成功したら、お借りしたお金は返していくつもりでいます。姉の婚約者であるあなたの好意に甘えてしまえば、緊張感もなくなってしまいます。失敗するわけにはいきません。あなたへ借りを返すことをめざして、取り組んでいきたいのです」
「わざわざ苦労する道を選ぶと?」
「はい」
今オリヴァーが言い出したことが決して簡単でないことぐらい、ジェシカにもわかっていた。
結婚して縁続きになり、実家に援助をしてもらうなど貴族の間では当たり前だ。しかし、どうしてもそう甘えることに、ジェシカは抵抗があった。
弟のこの提案は、若さゆえの無謀な発言ととらえられてしまうかもしれないが、ジェシカはそう言い切ったオリヴァーを誇らしく思っていた。
「おもしろい。わかった。そうしようじゃないか」
「ありがとうございます」
「それで……」
これで終わりかというところで、フェルナンがちらりとジェシカを見た。なんだろうと首を傾げるジェシカに、彼は声をかけた。
「ジェシカの意見はあるか?」
「私の意見?」
正直なところ、弟の用意した改革案がすごすぎて、口を挟む余地などない。この案が実現できたら、きっとここはかつてないほどの賑わいを見せるだろう。
「ジェシカ。どんな小さなことでもいい。ずっとここで育ってきたジェシカならではの視点で、意見が聞きたい」
私ならではの意見……。
考えを巡らせながら、三人を見回した。フェルナンと父はともかく、普段私には厳しい表情を向けることが多いオリヴァーまでも、穏やかな表情で待っている。
こうだったらいいのに。あれがあったら助かるのに。そんな思いはいくつもあり、日ごろから常々抱いていた。その一つ一つは本当に小さなことで、今ここで口にするほどのものかと思ってしまう。
けれど、フェルナンは言った。〝どんな小さなことでもいい〟と。ずっと見てきたからこそ言える、私らしい意見。彼は今、それを求めている。きっと、父や弟も同じだろう。
「収入にはつながらないけど……」
私が話し始めると、フェルナンが励ますような視線を送ってくる。それに勇気づけられて、話を続けた。
「子ども達向けの図書館が欲しいわ。ここは本など手にできない子もたくさんいます。私、孤児院で読み聞かせをしていて思ったんです。子ども達はいつだって本を読みたがっているんです。字が読めない子だって、繰り返し繰り返し読んで欲しいとねだってくるの。だから、図書館を作って、その一角で基本的な読み書きや算術を教えるの」
「学校ってことか」
「そう!! フェルナン様、そうなんです。子ども達は何ものにも代えられない財産です。だって、将来ここを盛り上げていくのは子ども達だわ。観光地として繁盛させていくには、そういう力が必要よ」
思わず熱く語る私を、オリヴァーが珍しく驚いた表情で見てくる。
「姉さんが、まともなことを言っている……」
あまりにも失礼すぎる呟きに、思わず弟を睨んだ。
(私だって、ちゃんとここのことを考えてるんだから)
「なるほどな。的を射ている。もしかしたら、真っ先に着手するべきかもしれないな」
フェルナンにそう言われて有頂天になったジェシカは、さらに続ける。
「それに、ここにはまだまだ違う技術もあるわ」
「というと?」
首を傾げるオリヴァーに、姉として自信を取りもどしたジェシカは胸を張る。
「孤児院では、年に二回開かれるバザーがあるわ。持ち寄ったものを販売して、孤児院の収入になるの。けれど、いくら宣伝をしても外から訪れるのはせいぜい近隣領の住民が少しだけ。すっごくもったいないの。だって、孤児院で作るリンゴジャムなんて絶品なのよ。それが外の人に知られていないなんて……ほかにもブドウもとれるわ。ここには果物を加工する確かな技術があるのよ」
「たしかに、以前もらったジャムは、なかなか美味しかったな」
フェルナンは、以前騎士団としてここへ来た時のことを思い出していた。
「どういうことだ?」
「この改革が成功したら、お借りしたお金は返していくつもりでいます。姉の婚約者であるあなたの好意に甘えてしまえば、緊張感もなくなってしまいます。失敗するわけにはいきません。あなたへ借りを返すことをめざして、取り組んでいきたいのです」
「わざわざ苦労する道を選ぶと?」
「はい」
今オリヴァーが言い出したことが決して簡単でないことぐらい、ジェシカにもわかっていた。
結婚して縁続きになり、実家に援助をしてもらうなど貴族の間では当たり前だ。しかし、どうしてもそう甘えることに、ジェシカは抵抗があった。
弟のこの提案は、若さゆえの無謀な発言ととらえられてしまうかもしれないが、ジェシカはそう言い切ったオリヴァーを誇らしく思っていた。
「おもしろい。わかった。そうしようじゃないか」
「ありがとうございます」
「それで……」
これで終わりかというところで、フェルナンがちらりとジェシカを見た。なんだろうと首を傾げるジェシカに、彼は声をかけた。
「ジェシカの意見はあるか?」
「私の意見?」
正直なところ、弟の用意した改革案がすごすぎて、口を挟む余地などない。この案が実現できたら、きっとここはかつてないほどの賑わいを見せるだろう。
「ジェシカ。どんな小さなことでもいい。ずっとここで育ってきたジェシカならではの視点で、意見が聞きたい」
私ならではの意見……。
考えを巡らせながら、三人を見回した。フェルナンと父はともかく、普段私には厳しい表情を向けることが多いオリヴァーまでも、穏やかな表情で待っている。
こうだったらいいのに。あれがあったら助かるのに。そんな思いはいくつもあり、日ごろから常々抱いていた。その一つ一つは本当に小さなことで、今ここで口にするほどのものかと思ってしまう。
けれど、フェルナンは言った。〝どんな小さなことでもいい〟と。ずっと見てきたからこそ言える、私らしい意見。彼は今、それを求めている。きっと、父や弟も同じだろう。
「収入にはつながらないけど……」
私が話し始めると、フェルナンが励ますような視線を送ってくる。それに勇気づけられて、話を続けた。
「子ども達向けの図書館が欲しいわ。ここは本など手にできない子もたくさんいます。私、孤児院で読み聞かせをしていて思ったんです。子ども達はいつだって本を読みたがっているんです。字が読めない子だって、繰り返し繰り返し読んで欲しいとねだってくるの。だから、図書館を作って、その一角で基本的な読み書きや算術を教えるの」
「学校ってことか」
「そう!! フェルナン様、そうなんです。子ども達は何ものにも代えられない財産です。だって、将来ここを盛り上げていくのは子ども達だわ。観光地として繁盛させていくには、そういう力が必要よ」
思わず熱く語る私を、オリヴァーが珍しく驚いた表情で見てくる。
「姉さんが、まともなことを言っている……」
あまりにも失礼すぎる呟きに、思わず弟を睨んだ。
(私だって、ちゃんとここのことを考えてるんだから)
「なるほどな。的を射ている。もしかしたら、真っ先に着手するべきかもしれないな」
フェルナンにそう言われて有頂天になったジェシカは、さらに続ける。
「それに、ここにはまだまだ違う技術もあるわ」
「というと?」
首を傾げるオリヴァーに、姉として自信を取りもどしたジェシカは胸を張る。
「孤児院では、年に二回開かれるバザーがあるわ。持ち寄ったものを販売して、孤児院の収入になるの。けれど、いくら宣伝をしても外から訪れるのはせいぜい近隣領の住民が少しだけ。すっごくもったいないの。だって、孤児院で作るリンゴジャムなんて絶品なのよ。それが外の人に知られていないなんて……ほかにもブドウもとれるわ。ここには果物を加工する確かな技術があるのよ」
「たしかに、以前もらったジャムは、なかなか美味しかったな」
フェルナンは、以前騎士団としてここへ来た時のことを思い出していた。