貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「そのままでは、王都で売られている物にかないっこないわ。けれど、遊びに来た先でちょっと口にした物って、その雰囲気なのか気持ちの問題なのか、余計に美味しく感じるじゃない?」

話しながらジェシカは、フェルナンとのデートを思い出していた。彼は出先で見つけた美味しいものを、家族にもとよくお土産に持たせてくれた。
どれも確かに美味しかった。それなのに、自宅で食べた時に同じ感動は得られなかったのも事実。

「まあ、そうかもしれませんが……姉さん、この話の着地点は大丈夫なんですか?」
「問題ないわ」

自信ありげに頷く姉を、オリヴァーは疑わしげに見つめたが、ジェシカは怯まなかった。

「温泉を利用した人って、飲み物が欲しくなると思うの。ドリンクを有料で提供して、そのおまけにここで作ったジャムを添えたスイーツを出すの」

ここにきてスイーツかと、オリヴァーは呆れを通り越していた。姉はどこまでもぶれないのだと、ジェシカらしさをなぜか嬉しく思っていた。

「それで、もし気に入ってくれたら、お土産にどうぞって売るのよ。入れ物のデザインを他にはないような独自のものにしてもいいわね。他所で売られているものと差別化ができるわ。ああ、季節限定なんて事前に告知しておけば、その時期にもう一度来たいって思ってくれるかも。ねえ、どうかしら?」

すっかり自分の世界に入って熱弁をふるっていたジェシカ。はっと気がつけば、三人とも呆気にとられた様子でこちらを見ていた。

「ジェシカ……」
「姉さん……」

父と弟が、やっとという感じで声を出したものの、名前を呼ぶのみ。ジェシカは自分がよっぽど見当違いなことを言ってしまったのかと、急に不安になっていった。

「すごいな……」
「え?」

となりから聞こえた声に、ジェシカは視線を上げた。

「孤児院にとってもいい話じゃないかな」

フェルナンに続いて、マーカスも反応した。

「わ、私、変なことを言ってないかしら?」
「変なものか。正直、驚いている。ジェシカの提案は、そのまま実現できるんじゃないか」
「本当に? フェルナン様」

途端に瞳を輝かせたジェシカに、フェルナンは笑みを浮かべた。

「ああ。父上とオリヴァー君はどう思われたか?」
「私は賛成ですよ。ジェシカだからこそ提案できた意見だね」

フェルナンの問いかけに、マーカスがにこやかに答えた。

(オリヴァーは、また食べ物かと思ってないかしら)
そっと伺うジェシカに、オリヴァーが大きく頷いた。

「僕は、正直驚いています。姉さんの食い意地が、まさかここで生かされるとは思ってもいませんでした」
「なっ、ちょっとオリヴァー!」
「褒めてるんですよ、姉さん。すごくよい意見だと思います。それが実現したら、孤児院の収入も増えるでしょう」

(うそ。あのオリヴァーが私を褒めるなんて……なんてことなの)

幼い頃は、あれほど自分がお世話をしてあげていたというのに、今ではすっかり立場は逆転していた。常に何かをしでかす姉と、それを咎める弟。姉と弟どころか、まるで兄と妹のように思われていた。
そんなオリヴァーからの普段はめったに聞かない賛辞に、ジェシカは途端に自信を取りもどしていた。

「本当? オリヴァー」
「ええ。僕にはそんなこと思いつきませんでしたよ」
「ジェシカが足しげく孤児院に通って、交流してきたからこそ出てきた意見だね。さて、細かくはおいおい詰めていくとして、今できることから動き出そうか」

父の言葉に、オリヴァーとジェシカが力強く頷いた。

「目標は三年だ。三年で軌道に乗せよう」

ミッドロージアン親子に応えるよう、フェルナンはあっという間に必要な手配をした。
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