貧乏伯爵令嬢の世にも素敵な!?婚活事情
「すまない」

ハッとしたフェルナンは、立ち上がって顔を背けてしまった。顔を手で覆って隠してしまっているけれど、耳元が赤くなっているとジェシカは気が付いた。

「フェルナン様」

呼びかけてみれば聞いてくれる意志は感じるものの、フェルナンは顔を背けたままだ。
10歳以上も年下の彼女に対して自分は何を言っているのだと、羞恥心からジェシカを見られずにいた。

「私だって同じですよ。こんなに素敵なフェルナン様を、他の女性に見せたくないっていつも思っています。だって、フェルナン様はすごくモテるから」

思い出すのは夜会で詰め寄ってきたグレイス嬢のこと。それ以外にも、面と向かってこそ言われていないものの、彼と婚約した自分に嫉妬の目が向けられているのは何度か気付いていた。

「不安なんです。いつか誰かに、フェルナン様をとられてしまわないかって」

ハッと振り向いたフェルナンは、〝そんなことあるわけない〟とジェシカの隣に戻ると、その華奢な体をぎゅっと抱きしめた。

「私がジェシカ以外の女性に振り向くなど、この先も絶対にない」
「でも、不安なものは不安です」
「それは……はあ。私も同じだ。可愛いジェシカを若い男にとられやしないかと、いつも怯えている」

大人なフェルナンも、自分と同じように悩んでいることを知ったジェシカの表情は、みるみる明るくなっていく。
フェルナンの告白に勇気を得たジェシカは、抱きしめられていた体をそっと離すと小さな手でフェルナンの手を包み込んだ。彼女の瞳は今、よいことを思いついたとキラキラと輝いている。

「それなら、結婚式でたくさんの人が見ている前で、思いっきり仲の良い姿を見せつけたらどうかしら? 私たちの間に、他の人の入る余地なんてないのよって」

その可愛らしい提案に、フェルナンの表情も少しずつやわらいでいく。

「一生に一度のことだもの。フェルナン様のために、一番綺麗な自分でいたいわ」
「そうだ。そうだな、ジェシカ」

どこか吹っ切れたような顔をしたフェルナンに、ジェシカも笑みを浮かべる。

「ジェシカの言う通りだ。ずっと年上の私がこんなこと言って……みっともないな」
「いいえ。私はフェルナン様の本音に触れられて、嬉しかったわ」

ほんのり顔を赤らめたままのフェルナンに、ジェシカの胸はきゅんと締め付けられていた。


「ロジアン様からの言づけです」

ジェシカが落ち着きを取り戻したところで店主を呼ぶと、ロジアンはすでに店を後にしていた。手渡された手紙には、ロジアンの直筆なのか几帳面な文字が並んでいる。

【団長さん。ジェシカさんはあなた以外の殿方など、一切目に入っていませんよ。一生に一度の舞台で、最高に輝くジェシカさんの姿を見られることを、楽しみにしております。】

再びフェルナンが顔を赤らめたのは言うまでもない。

「ロジアン夫人には、幼稚な私の心など全てお見通しだったのだな」

彼女が〝団長さん〟と言う時には、多分なからかいや冷やかしが含まれている証拠。ジェシカも思わずくすりと笑っていた。
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