関係に名前を付けたがらない私たち
「真似しちゃった」と悪びれずに言うと「あいぼん、だっけ?」と私の名前を口にしたのでびっくりした。

「なんで知ってるの?」

「え、今更? 俺、何度もここであいぼんとめぐちん見たことあるよ。直接話したことはなかったけど」

「間接的になら話したってこと?」

「うん。ノストラダムスにビビってたとき、俺もいたし」

 奥のテーブル席のほうを「あの席」と顎でしゃくった彼は「実はさ、俺もノストラダムスにめっちゃビビってた」

 と、笑いながら言った。私より幾つか年上であろう彼は、笑うと更にイケメン度が増し、私の下心を甘くくすぐってくる。

「まじで! うっそ、仲間じゃん。っていうか、あのノストラダムスのおっさん、ほんっとムカつくと思わない? これだけ私と、えっと名前……」

 この人、名前なんだろう。口ごもったとき、察してくれたようで「ゆうき。優しいの優に、希望の希で優希」

「優希! なんかかっこいい名前だね。私はね」

「愛、でしょ。ってか、アイって名前じゃないのにあいぼんってあだ名なくない?」

「まあ、それもそっか」

 タイミング良く運ばれて来たチンザノロッソのロック。かんぱーい、と小気味良くグラスを鳴らした。
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