関係に名前を付けたがらない私たち
「―――月曜と火曜、私ちょっと実家に帰んないといけないの」

 たまたまその日は珍しく耕平が朝から家にいた。
 休みを満喫しているのか惰眠を貪ったり、起きたと思えば顔も洗わずカップラーメンを食べたり、パジャマ姿のまま、思い思いに過ごす耕平を見るのは久々だ。

「実家? そうなんだ。ゆっくりして来いよ」

 それだけだった。余裕過ぎて、呆気なくて、こんなもんか。と肩透かしを喰らった。
 世の中は私以外にも浮気や二股、不倫をしている人は腐るほどいる。皆、言い訳や裏工作に頭を巡らせ、中にはアリバイ屋なるものを利用する人もいるらしい。
 皆苦労しているというのに、私はなぜこうもうまくいくのだろう。
 あまりにも物事が私本位に動くため、ふと、耕平は今も私を好きなのか、そんなことが気になった。

「ねえ、耕平はさ、今でも私が好き?」

 煙草に火をつけた耕平は煙がしみたのか、目を眇めて私を見る。

「好きだよ。なんで?」

 即答をまともに喰らい逆にたじろいだ。

「なんでっていうか。最近、そういうの聞いてなかったし」

 そっか。と、耕平はふうっと煙を細く吐き出した。
 紫煙がゆらゆら立ち昇ってゆく。いつも思うけど煙草の煙は、空飛ぶ龍のようだと思う。幻想的だ。でもあまり共感されないので口には出さない。

 てっきり話は終わった。と思った。
 耕平がテレビをつけて、ごろりとベッドに寝転がったから、私は壁にもたれて携帯をぴこぴこ操作し、優希に送るメールを作成していた。

「でもあいぼんは好きな男いるんだろ?」

 月曜火曜無事に休みもらえたよ、の「よ」の後にくっつける絵文字を選んでいたときだった。突然落ちた声に、思わず指が止まった。

―――今、なんと?

「本当は実家じゃなくて、好きな男と出掛けるんじゃないの?」

「……えと、何それ」

 ギクシャクとロボットみたいな変な声が出てしまった。なのに耕平は落ち着き払った様子で、むしろ私の変な声を笑っていた。
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