関係に名前を付けたがらない私たち
「ごめん。俺にそんなこと言う権利ないのに。変なこと言ってごめんな」

 何が「ごめん」なんだろう。ごめんを言うべきは、多分、確実に私なんだけど、耕平は私に謝罪なんて求めもしない。

「あいぼんは俺と一緒にいていいの?」

「あ、あの。何を言ってるのかな」

「だから言葉のまんま。俺なんかといていいのかなって。あいぼんに好きな男いるのは知ってるし、っていうか付き合ってるだろ、優希だっけ、確かそんな名前じゃなかった?」

―――なぜバレてるんだ、おい。

 冷や汗ダラダラになりながら、ふと、ノストラダムスを思い出した。
 あの日、耕平に予言された。しょうもない予言だったけど、もしかして耕平はそういった能力があるのかと一瞬馬鹿げたことが脳裏を巡った。

「それは予言? それとも根拠があるの?」

「あいぼんはまだノストラダムス引きずってんの? 根拠っていうか、あいぼんと優希のことって結構前から噂になってるじゃん。優希も噂くらいは知ってんじゃないの」

「嘘っ」

「嘘じゃないって。皆に聞いてみたらわかるよ。あのさ、バレたくない時は彼氏と関係のないとこで遊ばねえと世の中って狭いんだぜ? 人の口に戸は立てられぬって言うだろ」

 最後の諺はさっぱり意味が分からず、耕平に「それどういう意味」と訊ねてしまった。親切で律儀な耕平はわざわざ紙に書き、

「人はね、好き勝手に噂するし、それを止めることなんかできないってこと。わかった?」

「はい、わかりました」

「よし、ならいい」

 なに、何なのこの状況。―――怖っ。
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