関係に名前を付けたがらない私たち
 9月12日。その日は水曜日で、私は少し風邪気味だったこともあり店を休んでいた。

 美容室の仕事を終えた優希が、お粥とヨーグルトとアイスクリームを差し入れてくれたのだけど、そこまで酷い状態でもなく何だか恐縮してしまった。

「全然、大したことないんだけど」

 キッチンでお粥のパックを湯煎している優希の背中に話しかけると「今日は甘えておけばいいじゃん」

 とっても優しくて胸がときめいた。お言葉に甘えて「ああ、頭が痛いー。なんか悪寒がするー」ってわざとらしく訴えると、私の前髪をかき上げた優希がおでこをコツンとくっつけた。

「重病ですね。はい、寝てください」

「うぅ、先生。キスしてくれたら治りそうですっ」

 仕方ないですね、とノリ良く私の唇にキスを落としてくれた優希は、笑いながら「お粥食べるだろ」と、テーブルに用意してくれた。
 何の変哲もない梅粥なのにとっても美味しく感じたのは、優希が傍にいるからに違いない。でも梅粥より、優希が食べているグラタンのほうが美味しそうに見えて仕方ない。

 優希は最近、髪をアッシュに染めている。そのカラーが白皙な容姿の彼に似合っていた。おもむろに手を伸ばして髪に触れると「うん?」と優希が振り向いた。

「優希のこの色好き。私もこんな色にしたいな」

「傷むよ。ブリーチして色のせてるんだもん。あいぼん、もう髪は傷めない宣言してたのに」

 くすくす笑う優希は私の髪の一束を摘まんで「あいぼんの髪、俺以外に切らせんなよ」と口付けた。
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