関係に名前を付けたがらない私たち
 以前、優希以外の美容師に髪を切ってもらい、ちょっとした小競り合いに発展したことがあった。当然だけど嫌がらせでそんなことをしたわけではなくて、優希が働く美容室を訪れたとき、指名のお客さんで彼の手は埋まっていた。

「店が終わるまで待ってて」と彼に言われたけれど、時間外に施術を受けた時、優希は私からお金を取らない。それでは売上げに貢献できないし。
 ふと目に付いた若い男の子スタッフに切ってもらうことにした。だけどその後、優希はあからさまに機嫌が悪くなり、何が何なのか私にはわけがわからなかった。

「なんでそんなに怒ってんの?」

 しばらくの間、優希は「別に」とか「何でもない」とか言っていたけれど、大きな溜息をついた彼は、スタッフが全員帰った後、私をシャンプー台に連れていき、強引に髪を洗った。そして鏡の前に座らせると、カットクロスを纏わせ私の髪にハサミを入れ直したのだ。

「もしかしてあの髪型、似合ってなかった?」

「そうじゃないよ。あいつにカット教えたの俺だし」

「じゃあなんで?」

「俺以外の男があいぼんの髪に触ったのが許せないだけ。もうこういうのイラつくからマジで辞めて」

―――嫉妬ですか。

 何気に優希は嫉妬心が強く、独占欲も旺盛だ。
 特に私は水商売をしているし、ふらふらとクラブに遊びに行ったりするので、優希は口にこそしないけれど、あまり良くは思っていないらしい。

「束縛でがんじがらめにする気はないけど、あいぼんの彼氏は俺だってこと、ちゃんと自覚しといてね」
< 45 / 67 >

この作品をシェア

pagetop