関係に名前を付けたがらない私たち
 乱れたシーツを取り換えてくれた優希が、テレビをつけた。

「―――あれ、これ何の映画?」

 ベッドに腰かけたまま、水を飲んでいた私は「映画?」とテレビに視線を向ける。

 青空によく映える二つの高層ビル、そこに飛行機が突っ込んでいく様子が画面に映っていて「なんだろう、これ」と私は首を捻る。

 けれど違和感があった。
『日本時間午後8時45分頃』とか『現地時間では9月11日午前8時45分頃』とか、アナウンサーが急いた様子で記事を読み上げている。

「これ映画じゃない」

 優希が驚いた顔で他のチャンネルに切り替えた。そこでも同じ映像が流れていたけれど、すぐに生中継に切り替わり『アメリカのツインタワーに旅客機が―――』と男性リポーターが捲し立てるような口調で報じていた。

 私と優希はテレビにくぎ付けになり「これ、やばくない?」「なんだこれ」と青ざめてしまった。

 私たちがイチャイチャと睦み合っていたまさにその時、世界ではとんでもない事件が勃発していた。
 ニュースも見ないし、日本の情勢すらわからない私が、世界情勢なんてわかるはずがない。

 けれど、その映像はあまりにも衝撃的過ぎて、現実味がなかった。「あの飛行機って中に人が乗ってるんだよね……?」

「多分。いや、多分じゃなくて確実に乗ってるよ」

「あのビルの中にも人がいるんだよね」

 と言った瞬間、画面ではビルから人らしき姿が、大量の紙吹雪と一緒に落下していった。

「今の、人じゃない!?」

 思わず大声を出してしまった。

 最初は事故だと思っていたけれど、これが後にテロだと分かり、世界が震撼する大事件となった。
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