関係に名前を付けたがらない私たち
 翌日、お店ではお客さんも女の子たちも、皆9・11の話題で持ち切りだった。

 おバカ揃いの私たちもさすがに、この事件を冗談には出来ず、お客さんたちも「いやあ、まさかあんなことが起きるとは」と苦い顔でお酒を口にしていた。

 遠く離れたアメリカで起こった事件。けれどお客さんが勤務する企業の中に犠牲者がいたりして、決して他人事ではなかった。

 この事件から1ヶ月が過ぎたある日のこと、偶然、耕平に遭遇した。

 仕事が終わってコンビニで買い物をしていた私は背後から「あいぼん」と声をかけられた。振り返ると黒服姿の耕平が立っていた。髪もワックスでビシッと撫で付けられていて、妙な威圧感がある。

「びっくりしたー。チンピラにナンパされたかと思った。つうか生きてたんだね」

 つん、とそっぽを向いた私に「お、不機嫌だな」と気にした様子もなくからっと笑った。「相変わらずテキトーなもん食ってんのな」私が提げていたカゴをひょいと取り上げて「奢ってやるよ」と耕平は勝手にレジへと歩き出した。

 あ、これも。ついでとばかりに洗濯用洗剤を放り込んだ。

「おまえな」

「奢ってくれるんでしょ。だったらこれも」柔軟材も追加する。

「何だよこれ。こんなの買うつもりなかっただろ。どう見てもついでにしか見えないんだけど」

「生活に必要だもん」

 はいはい、と呆れ気味の耕平はレジで買い物を済ませて、外で待つ私の元に袋を提げてやって来た。

「はい、どうぞ」

「はい、どうも」
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