関係に名前を付けたがらない私たち
 何やらのっぴきならない事情があるんじゃ……と邪推の一つや二つしたくなるのが人間のサガというやつだ。

「……もしかして、女の子を妊娠させたとか?」

 一応周囲を気にして小声で訊いてみた。
 耕平は耕平で、私が妊娠したんじゃないかと思っていたらしく、さすが元カレ元カノだねってハイタッチはしなかったけれど、思うところは同じ方向だったようだ。

 けれど耕平は「ちょっとな」と曖昧に濁した。
 そうこうするうちに診察を終えた20代後半くらいの女の人が待合室にやって来て、耕平に話しかけている。どうやらこの人の付き添いだったらしい。

―――彼女?
 ちょっとだけモヤっとするのは毎度のこと。とはいえ、いくら好戦的な私でも病院内で挑発行為はさすがに、ね。

 決して聞き耳を立てていたわけではない。「店長、わざわざすみません」とか「じゃあ診断書だけ俺が持って帰るわ」とか聞こえてくるのだから仕方がない。
二人の会話から察するに、耕平が店長をしている風俗店に勤務する嬢のようだった。

 仕事の一環か。腑に落ちたけれど、腑に落ちない。私が以前、生理不順でレディースクリニックを受診したとき、耕平は特に付き添ってくれなかったのに。

 まあ仕事だから付き添う。という考えも出来るけれど、やっぱり何だかイライラした。

 この日、私がレディースクリニックを訪れた理由は妊娠ではなく、ムダ毛処理に失敗し炎症したからだ。そんな恥ずかしい乙女の事情を、いくら元カレであっても今カレであっても言いたくはない。

 軟膏薬を処方され受け取った私は、優希が待つ車へと戻り「ホルモンバランスの乱れだって。エッチは少し我慢してね」と、恥じらい気味に嘘をついたのだった。
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