関係に名前を付けたがらない私たち
「―――ねえ、あいぼん。耕平君とヨリ戻した?」

 平日の夜、小雨が降っていたこともあり客足がまばらだ。
 女の子たちは皆、暇を持て余していた。ふわぁと大きな欠伸をおとしたとき、めぐちんに突拍子もなく訊かれた。

「なんでっ。ヨリなんか戻してないよ」

「そうなんだ。てっきりそうなのかなぁって思ったの」

「ええっ。何がどうなってそうなるの」

 めぐちんはいつもの癖でつけまつ毛を指先で持ち上げる。

「この前、あいぼんと耕平君が一緒に飲んでるとこ見かけちゃってさ。なんかこう……、いい感じだったから邪魔しちゃ悪いし、声かけるの辞めたんだよね」

 この前? いつのことだろう。
 心当たりがないのではなく、それなりにあるから私は困った。耕平とは未だ頻繁に遭遇するし、最近はたまに飲みに誘われることもあった。

 つい先日も、耕平と一緒にバーに行ったばかりだった。
 そのバーというのが、いつも行っているようなストリートバーではなく、ジャズが流れている高級感漂うスタンダードなバーだった。

「ちょっと……、こんな高いとこ大丈夫なの……?」

 誘いに気軽に乗っかったはいいが、連れて来てもらったバーの格式の高さに圧倒された私は小声で囁いた。

「大丈夫だって」

 風俗店の店長が一体どれくらいの給料をもらっているのか想像もつかなかった。
でも、以前はサーファーみたいな服装にGショックの腕時計をつけていた耕平が、最近、随分変わったように思う。
 何気に目についた腕時計はロレックスのサブマリーナだし、財布だってエルメスだ。
< 54 / 67 >

この作品をシェア

pagetop