関係に名前を付けたがらない私たち
「耕平、なんかお金持ちっぽくなったね」

 さすがに高級なバーでチェリーコークをオーダーするのは気が引けて、苺のフローズンダイキリをオーダーした。
 耕平は正面を向いたまま「まあ、な」と言っただけで、それ以上は特に言及しなかった。
お金のことだし、あれこれ訊くのは厭らしい気がする。私もそれ以上は触れなかった。

 それから半年ほどが過ぎたある日のこと、優希から不意に訊かれた。

「―――耕平って今どうしてるの?」

 ぎく、と妙な緊張感が走った。
 私はテレビに視線を向けたまま、平静を装い「えー、そんなの知らないよ。なんで?」と答える。

「何となく。耕平と連絡とかとってないんだよな?」

「とってないよ。当たり前じゃん」

「ならいいけど。実はさ、この前、うちの店の近くで耕平を見かけたんだよね」

 だったら私なんて何度も―――
―――など、言えるはずもなく。

私は優希に視線を向けずに、いや、向けられずにいた。

「なんか、耕平ってヤバい仕事でもしてんのかな」

―――はい、ソープの店長です。
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