関係に名前を付けたがらない私たち
―――耕平が指名手配された。

 そんな衝撃的な出来事が起こったのは、私が25歳の誕生日を迎え数日が経過した、春だった。

 秋に優希との結婚を控えていた私は、夜の仕事を一年前に卒業し、日中は父親が経営している運送会社の事務員として、そこそこ真面目に働いていた。

 あれほど脱ギャルが出来なかったのに。
 ギャルの名残すら感じられないほど、至って普通の女になった私は、街でかつてのお客さんに遭遇してもほぼバレない。

 水商売しかしたことがなかった私が、うまいこと世間に溶けこめた安堵と、あまりにもバレなさ過ぎるため不安とが綯い交ぜになり、
「私の黒髪と薄化粧って実はとんでもなくブス?」と優希に面倒くさいことを訊ねたりしていた。

 優希は変わらず優しくて、私を愛でてくれる。
 けれど私の問いかけに「普通に面白いよ」と返された時は何とも言えない気持ちになった。
 容姿に面白さは求めていない―――。

 変化なのか進化なのか”普通に面白い”見た目になった私は、飲みに出掛けることもめっきりなくなった。
 めぐちんや、他の子たちとも関係が間遠になり、ごくたまにメールで近況を報告し合うくらいの間柄。
 それを寂しく思うこともあったけど、日中は仕事、優希とは既に一緒に暮らしていたこともあって、そこそこ忙しい日々を送っていた。

 一般的な私の日常に、とんでもない爆弾を投下した耕平とは、つい1週間前に会ったばかりだった。
 だから事件を知ったときは絶句どころか、しばらく魂が抜けたような状態に陥った。

 なんと職場である事務所に、警察がやって来たのだ。
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