関係に名前を付けたがらない私たち
 かつて、酔っ払い同士のケンカや痴情のもつれなど、警察の姿を目撃することは何度もあった。

 夜の世界では特に珍しいことでもなく、それが私の日常だった。
 けれど巡回中のおまわりさんに「ねえねえ、おまわりさんって出会いとかあるんですか?」と冷やかし半分に話しかけ苦笑いされることはあっても、個人的に警察の世話になるようなことはなかった。

 警察が、自分を訪ねてくるような事態も初めてだった。


「―――では、もし畑田耕平から連絡があった場合はすぐに連絡してください」

 街で見かけるおまわりさんではなく、刑事さんが二人。
 まさに刑事ドラマのような光景の中に、血の気が失せた私がいた。

 連絡先を残して刑事さんが事務所を去った後、私は気分が悪くなりトイレに駆け込んだ。何度も嘔吐して、呼吸が苦しくて、一種のショック症状だったのだろう。

 そりゃショックも受けるわ。こんな話を聞かされたのだから。
 耕平が暴力団が関与する特殊詐欺集団の幹部だったらしく、摘発された直後から行方が分からなくなったそうだ。

―――なんだそれ。

 意味が分からなさ過ぎて、呟いてしまった。
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