関係に名前を付けたがらない私たち
「この子、あいぼん。19だっけ?」

 誰かが私を紹介する。

 うん、と頷くと「あいぼん? 名前、アイちゃんとか?」

「当たり。愛してるのアイ」

「愛してるのアイ。なんかいいね、それ。俺さ、畑田 耕平っていうんだけど、“畑と田んぼを耕す、平たく”って書くの。うちのじいさんがつけた名前らしいんだけど、どうかしてるよな」

 畑と田んぼを耕す、平たく。

「先祖、お百姓さんとか?」

「先祖は知らないけど、じいさんは鉄工所で働いてたっていうし、うちの父ちゃんは大工だよ」

「耕す、平たくって、由来的に謎だよね」

「でしょでしょ。由来知りたかったけど、じいさんもう死んじゃったから聞けないんだけどね」

「へえ。で、耕平はなにやってる人なの?」

「俺? 俺は弁当屋さん」

「弁当屋さん?」

 会社員、とか、学生、とか、フリーター、とか、そういう返しが来るものだと思い込んでいただけに“弁当屋さん”がいまいち呑み込めなかった。
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