関係に名前を付けたがらない私たち
 かなり前から、その特殊詐欺集団は存在していたらしい。
 恐らく私と付き合っていた頃にはもう、耕平は手を染めていたようだった。

 というのも耕平がしていたデリ嬢の送迎、風俗店の店長、全て暴力団が関係する組織だった。
 耕平がそれを知らずに働いていたはずがない。
 当然、承知の上で働いていたのだろう。

 思い返せば、不審な点はいくつもあった。
 頻繁に社長から飲みに連れ回され、断ればいいものを断らない耕平にイライラしていた。
 けれど、あれは”断れなかった”んだ。
 社長というのは、恐らく暴力団関係者だったのだろう。それにあの羽振りの良さも考えてみればおかしかった。

 以前、優希が目撃したヤバそうな奴ら、は暴力団関係者だったのだろう。だから簡単に、あの世界から抜けられなかったのかもしれない。

 俺はあいぼんを幸せにできない。
 そう言っていたのは、まさか、このことがあったから?

 わからない。今となっては耕平が何を思っていたのかなんて全然わからない。
 私を好きだと言っていたくせに、すんなり別れを切り出し「幸せにしてもらえ」なんて言った耕平は、どんな思いでいたのだろう。

 破局後初めて耕平にコンビニで会った日。
 耕平と違って優希は幸せにしてくれると意地悪く言ったとき、耕平が寂しそうに笑った、あの表情が瞼裏に浮かんだ。

 1週間前、耕平に会ったのは結婚祝いをもらったからだった。
 時間にして20分にも満たない短い時間。
 場所は駅近くのカフェ、店を訪れたとき耕平は窓際席に座って、ぼんやりとした面持ちでコーヒーを飲んでいた。

 向かい合って座った私に「結婚おめでとう。それにしてもあいぼんが結婚かぁ」と、何やら感慨深げに言う耕平に「親戚のおっさんか」といつもの調子で突っ込んだ。
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