関係に名前を付けたがらない私たち
 あはは、と笑った耕平は少しだけ口ごもったあと「しばらく仕事で海外に行くから、先にお祝い渡しておくよ」

 そう言ってご祝儀とワイングラスのセットを贈られた。
 どちらも私を慮ってか祝儀袋にもワイングラスを収めた箱にも『畑田』の名前は記されていない無地熨斗だった。

 思えばあの日、耕平は少し疲れた顔をしていた。
 いつもより口数も少なかった気がする。でも私は気にも留めていなかった。

「海外ってどこに行くの?」

「うーん、まあ、色々。落ち着いたら連絡するよ」

「一人で行くの?」

「多分ね」

 そんな短い会話だったけれど、それが事実だったのかどうかはわからない。
 マネージャーの話によると、海外に高飛びは無理だろうと言っていた。他の連中や実行犯たちが次々に逮捕され、耕平が捕まるのも時間の問題だとも。

「あいぼん、分かってると思うけど耕平君を庇ったり、匿うような真似はしたらダメだぞ。幇助であいぼんも罪に問われるからな」

「……わかってます。でもどうして警察は私に辿り着いたんだろう」

「警察は絶対にミスが許されないから、確実な証拠が揃って一斉に動き出すんだよ。まあ、耕平君も前からきな臭い噂があったからね。あいぼんもマークされてたってことだ」

 きな臭い噂。
 そんなことすら、私は知らなかった。

 確かに刑事さんは「畑田と一週間前に会っていますよね」と断定的な口調だった。
 何もかも分かっているんだ、と言わんばかりの態度に気圧されたくらいだ。
 耕平の携帯電話はガサ入れで既に押収し、その携帯から直近で電話した相手が、私だったと刑事さんは言った。
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