関係に名前を付けたがらない私たち
 当然と言えば当然だけど、優希と別れの危機が訪れた。
 単なる彼氏彼女の別れの危機とは違い、秋には入籍を控え、結婚式会場も既に予約済みだったので、破談の危機というヘビーな状況だ。

「―――俺に隠れてずっとあの男に会ってた、ってことだよね」

「……ごめん」

「ごめんじゃなくて。いつから? いつから俺を裏切ってたの?」

「……耕平と別れて3ヶ月後に偶然コンビニで会って、それからもちょこちょこ遭遇することがあって、それで、」

「―――っんだよそれ!!」

 ガンっとテーブルに拳を叩きつけた優希は、今までに見たことがないほど目尻を吊り上げて、聞いたことがないほどに震えた声をしていた。

 泣くのは卑怯だと思うのに、恐怖心のほうが勝ってしまい、ぼろぼろ涙が流れ、私は、ひたすら「ごめんなさい」を言い続けることしか出来なかった。

 けれど本当に、会う以外のことは何もしていない。
 ノストラダムスに誓って、とこんな状況なのにノストラダムスが脳裏をよぎった私は馬鹿なんじゃないか、と。

 けれど嫉妬心も独占欲も旺盛な優希にしてみれば、自分の知らないところで何年にもわたり、こそこそと耕平に会ったり、連絡を取り続けていた、そんな私を許せないのだろう。

 いくら「何もない」と訴えたところで、優希には単なる言い訳にしか聞こえない。私を射殺しそうなほど酷薄な目で睨みつけた優希は、

「これ、捨てろ」

 耕平からもらったワイングラスの箱を私に手渡した。
 無言で受け取った私は中身を取り出し、照明にきらりと反射する華奢なワイングラスを新聞紙で包んで、シンクに持って行った。

―――耕平ごめんね。

 この期に及んで耕平に詫びる気持ちがある自分にうんざりしながらも、その思いごと消し去るように、私は金づちで叩きつけた。

 ぱり、と悲鳴のような音が悲しかった―――
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