関係に名前を付けたがらない私たち
 けれど、翌々日。

「俺は、あいぼんがいない生活は無理っぽい。ごめん、戻ってきて」

 実家に私を迎えにやって来た優希に抱きしめられて、なぜか謝罪を受けてしまった。
 どうして優希が謝るの、そう訊く私に彼は「あいぼんを泣かせたから」と答えた。

 泣きたかったのは優希のはずなのに。
 何年経っても優希は私に優しくて、そして甘い。それは20年近くが経った今も変わらない。

 ただ、甘やかす相手が私ではなく、娘になったのだけど―――


 最近、テレビで浜崎あゆみを見かけた。

 何が可笑しいのか毎日笑い、恋愛だクラブだイベントだと、いつも刺激を求めて遊び呆けていた時期、彼女は私にとって女神様みたいな存在だった。

 その浜崎あゆみも今ではアラフォーだ。
 当時大流行した”evolution”を歌っていて、そういえば私、カラオケで非常に残念な歌唱を披露したっけとどうでもいい思い出が脳裏を巡った。

 あの頃、よく耳にしていた歌を聴くと、何となく懐かしくて、だけど少し切なくて。過去を思いだすとき、記憶の中に生きる私はいつもキラキラしていて、少しバカっぽい。

 けれど現実は残酷だ。
 不意に見たリアルな自分の姿と記憶にある自分の姿との乖離が激し過ぎて怖い。
 例えばスマホが暗転した時に映った自分の顔、街角のショーウィンドウに映った自分の姿。こんな恐ろしい思いをしながら、生きているのだ。

 もう今となってはすっかり体形も崩れてしまい、中年体型だ。
 過去に日焼けに命をかけていた自分が恐ろしく思える。文句を言いながら塗っていた日焼け止めは、今では私のマストアイテムだ。

 あの頃のおバカな私にはわからないだろう。
 まさかアラフォーになって日焼け止めが手放せなくなり、娘が「うぜえ」と言えば「そんな言葉遣わないの!」と𠮟りつける、そんな口やかましいおばさんになるなんて思いもしなかっただろう。

 以前は脱がされることを前提にした下着をつけていたのに、最近は機能性と快適性を求めているし、ブリーチで金髪にしていた髪は、せっせと白髪染め。
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