関係に名前を付けたがらない私たち
 するとその場にいた男の子が「まじで弁当屋さんだよ、こいつ」と言った。

 聞けば耕平の親戚が仕出し屋を営んでいるらしく、早朝から弁当を作り、提携している会社や保育所、幼稚園に配達しているらしい。

「耕平が作ってんの?」

「そうだよ。他にも従業員いるけど。あ、俺、玉子焼きめっちゃ得意」

「へえ。今度食べさせて」

 いいよ、なんならウチ来る? とあっさり言われ、あまり後先を考えていなかった私は「うん、いくいく」と軽い感じでその場を抜け出した。


「―――なにこれ。めっちゃ美味しいんだけど」

 得意だと言っていた耕平の玉子焼きは本当に美味しかった。私の大好きな甘めの味付けはご飯のおかずというよりは、手作りのお菓子みたいにふんわり懐かしい味がした。

「でしょ。だし巻きも得意。食う?」

「食う、食う」

 耕平が一人暮らしをしているアパートは安普請なワンルームタイプだった。長身の耕平が台所に立つと、コンロもシンクもおままごとセットの付属品みたいに見える。

 けれどボウルに卵を割り入れ、菜箸で手際よく撹拌させる耕平はプロっぽくてかっこいい。一朝一夕では習得できない料理テクニックだ。
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