朝倉家の双子、恋をします!〜めぐり来る季節をあなたと〜
幕張入り2日目  side京
8月9日


前日の作業でかなり慣れたのか、残りの300を一気に仕上げ、桐箱の段組みに入る。番号を打った箱を下から順に次々と並べていく。バームクーヘンの入った桐箱を重ね、作っていくのは1枚の絵だ。

慎重に、ズレのないように。

緊張感を保つため、誰も昼食の事を口に出さず、午後3時。
ようやく完成したのだ。


「京、これ凄いな……」

「ああ……圧巻だな……」

よし! 完成予想図通りだ。
桐箱の中の端切れに包まれたバームクーヘンがほんの少しだけ顔を出し優美に彩られている。
そして、端切れの色彩、濃淡が浮かび上がらせるものは……

「つがいの鶴の完成です」

思い描いた通りだ。

桐野屋の工房を訪れた時、多彩な端切れの数に驚いた。

いちばん多いのは白と黒。おそらく長襦袢と留袖だと思われる。
しかし意外だったんだ。もっと色に偏りがあるだろうと思っていた。それがいい意味で裏切られた。淡色系はどれをとっても美しい。

バームクーヘンを、端切れの色彩と濃淡で絵の具のように着色し、桐箱を組み合わせ1枚のモザイク画に出来ないか……。
咄嗟に浮かんだ考えがそれだった。

それから俺は、端切れを色別、明度別に分類し、モザイクの1片と捉えることにした。これを使って描けるもの……。

そうして思いついたのが、祝い事にピッタリのつがいの鶴だ。

原案はもちろん俺が描いた。
しかし、実際に完成予想図通りに組み上げられるかは未知数だ。
仕上がってみて、全く思っているものとは違うものになる可能性だってあった。
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