最大級の愛を君に
「君の親がね〜、うちに借金残して消えたんだわ〜」
そんなはずない。
「…嘘だね」
俺がそう言うとそいつらは黙って顔を見合わせたと思いきや、うひゃひゃうひゃひゃと変な声で笑い出した。
なにがそんなにおかしいんだ。
お前らのその典型的な格好の方が笑えるだろ。
「おいおい、笑わせてくれるぜまったく。
随分親を信用してるらしいけどこれが本当の話なんだな」
「ほらこれを見ろ」
そう言って一人の男が俺の前に紙っぺらを掲げる。
『借用書』と書いてあるそこには俺の見知らぬ名前がサインされていた。
…いや本当は知ってるけど。
俺には関係のない名前が記されていた。
写真をかざしたやつが俺の顔をそっと撫でる。
反射的にその手を払った。
「…知らない名前だ」
「ん?ちゃんと見た?これどう見ても君の…」
「知らないって言ってるだろ!」
俺が大きな声を出したからか、近所の人がちらちらこちらを見ている。
やばいと思ったのか連中は、
「また来る。その時までにどうするか考えておくんだな」
なんて捨て台詞を吐いてどっか行きやがった。
そいつらがいなくなって、ちらりと見ると隣の吉原さん家のおばさんがどこかに電話しながらこちらを見ていた。
まさか、通報とか面倒くさいことしてないよな?
俺は原付にまたがり、逃げるようにその場を後にした。
家ですらも居心地が悪い。
…どこにも行く場所なんてないのに。
行き先も思い付かないまま、俺は原付のグリップを握って走らせた。